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親が認知症になったらやることは?財産管理について専門家が解説

木をモデルにした認知症のイメージ(第2回)

親が認知症になると、様々な問題が発生します。

その問題のひとつが親の財産の凍結です。これを回避するためには、どのような財産管理が望ましいのでしょうか?

 

今回は、認知症介助士であり、放送作家でもある新田英生氏に3回シリーズで執筆いただいた介護に関する記事の第2回目です。

「認知症になった人とはどう接すればよいのか?」

ぜひ最後までお読みください。

目次


  1. はじめに
  2. 事態を悪化させない為の対応術
  3. 財産を守る為の対応法

はじめに

高齢者の運転事故
  • もし、親が車を運転中、突然右側通行か?左側通行か?分からなくなったら。
  • もし、親が最近知り合ったという人に大金をあげてしまったら。

認知症になると、実際にこんな事態を招いてしまうケースがあります。
カラダ全体の司令塔であり、生きる上で大切な殆どのことを担っている脳。

その脳の記憶の連携が機能せず、あたり前に出来ていた行動が出来なくなり、人間らしい暮らしが出来なくなってしまうのが認知症です。
認知症になると、単に知識の記憶が失われるだけでなく

  • 身体の動かし方
  • 判断の仕方
  • 感情のコントロール
  • 気候の変化への対応

といったこともコントロールできなくなってしまいます。
冒頭の車の運転の事例は、道路交通法が突然頭の中で結び付かなくなった為です。また、大金を渡してしまった事例は、お金を管理する能力が失われたことによります。
そう、認知症の進行が進むと、自分や家族だけでなく、全く見知らぬ人にまで被害を及ぼす可能性もあるのです。

認知症患者との対応の仕方次第で、問題は、悪化、解決のどちらにもなりえます。また適切な対応法を知っていれば、その後の認知症の進行そのものを抑える効果もあるのです。
今回は、親が認知症になった場合の適切な対応法、さらにぜひとも知っておきたい親の資産管理の方法を紹介していきます。

事態を悪化させない為の対応術

険しい表情で娘を見る高齢者

帰宅したA子さんは険しい表情の母親から告げられました。
「しまっておいたお金(100万円)を返して!」
もちろん、A子さんは母親のお金を盗んでいません。この様に、家族に自分のお金を盗まれたと思い込み、トラブルになるケースは多いのです。

この時、あなたならどう対応しますか?
自分の親が認知症だと思っていない場合、
「私が盗むわけがないでしょ。ボケたんじゃないの?」
となりがちです。

実は、この時点で、親自身も認知症と気づいていないことも多いのです。すると、自分に非があるとは思っていないのでケンカに発展しやすくなります。

認知症のメカニズム

いざという時に備え、ある程度の現金をしまっておく年配の人は多い様です。
ところが、テレビなどで貴重品を全て同じ場所にしまっておくと泥棒に全て奪われて危険!という情報を見たりすると、しまっておく場所を変えてしまうケースがあります。

この場合、毎日のように出し入れするものではないので、しまった場所を忘れてしまいがちです。
ただ、これは、単なる物忘れ。場所が分からないだけで、場所を変えたことは覚えています。

しかし 認知症の場合、しまったという行為を忘れてしまうのです。
その結果、 お金をしまっていた定位置にお金がないと、誰かに盗まれたと思ってしまい、身近な家族に疑いの目が向けられることになります。

対応の仕方

認知症を自覚している人も、認知症を自覚していない人も、自分の異変を感じ、不安を抱えています。
その一方で、問題となっている記憶が無いので、自分が間違っているとは思っていません。 その為、「どこか置き忘れたんでしょ!」と自分を否定されるとケンカに発展しやすく、親子関係にも歪みを生じさせてしまうのです。

ストレスを与える言動はNG

認知症の原因となるのは、記憶の伝達回路を破壊してしまうアミロイドβタンパクです。
ストレスがかかるとアミロイドβタンパク質が増え、認知症の進行を速めてしまいます。

その為、目の前で起きている問題の事態悪化を防ぐ為にも、認知症を進行させない為にも、本人にストレスをかけない対応が大切です。
たとえ親に問題があると気づいても、知らないふりをして問題を解決していくことが肝要となります。

この場合 お金がなくなったという親にまず同調します 。
「どこに行ったのかしら」
と困っている者同士として一緒に探すのです。

あなたが先にお金を見つけたとしても「お母さん、ここよ。」と言ってはいけません。
親を責める感情が伝わってしまうからです。
お金を見つけたら親と一緒に探しながらその場所へ誘導します。

本人に見つけさせることで、本人の尊厳を傷つけず、過度なストレスを与えることなく、かつ、本人に問題を気づかせるようにしましょう。
相手の言動が理解できないと、対応する側もイライラや心配が募りますが、相手の心理が理解できれば、許せる気持ちが生まれ、ストレスが減ります。

財産を守る為の対応法

財産を守る手

実家で一人暮らしをしている父親の認知症が進行した為、介護施設に入所してもらいました。介護にかかる費用を父親の銀行口座から引き出そうと、父の通帳と印鑑を持って銀行へ。
しかし、父親の銀行口座は、口座凍結され、通帳と印鑑を持った家族でも引き出すことができませんでした。

口座凍結

銀行や証券会社などの金融機関は、口座の名義人が認知症と判断した場合、財産保護の観点から口座を凍結することができます。
認知症になり判断力が低下すると次のような危険があるからです。

  • 内容を十分理解しないまま金融取引をする
  • 振り込め詐欺などの犯罪に巻き込まれる
  • 身内による資産の使い込み

子どもが介護費用などに使用したとしても、他の親族への相談無しに使うと、相続時に親族間で揉めるケースもある為、金融機関は口座を凍結して財産を保護するのです。
その為、妻や子どもであっても原則として口座からお金を引き出すことは出来なくなってしまうのです。

凍結された財産は?

親が認知症になり、正常な認識が出来ない場合、本人の口座から介護費用などを払えるようにするには、原則として成年後見制度の法定後見制度を利用する必要があります。
法定後見人は、家族から家庭裁判所に申立て選任してもらい、財産の管理を行います。

しかし、公平性を保つ為、成年後見人に選ばれるのは、家族ではなく、弁護士や司法書士などが選任されることが多い様です。実際、最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況(令和4年1月~12月)によると、成年後見人の約8割は親族以外となっており、そのうち6割以上が弁護士と司法書士になっています。

更に、成年後見人に対して、毎月2〜6万円を支払わなければならない為、法定後見制度は利用されず、口座を凍結したまま放置しがちなのです。

口座凍結を防ぐ方法

口座凍結を防ぐ為には、本人の認知機能が正常なうちに手続きを済ませておく必要があります。

A)任意後見制度
本人が十分な判断能力を有する時に、あらかじめ、任意後見人となる方や将来その方に委任する事務(本人の生活、療養看護及び財産管理に関する事務)の内容を定めておき、本人の判断能力が不十分になった後に、任意後見人がこれらの事務を本人に代わって行う制度です。

成年後見制度の一種ですが、こちらは本人の判断能力がある間に締結する為、本人が後見人を選ぶことが出来、家族を指定できます。
公証証書の作成が必要で、効力が発するのは本人に判断能力がないと診断されてからとなります。

B)資産承継信託
資産承継信託とは、万一に備えて資金を信託銀行などに預け入れ、あらかじめ設定した条件のもと本人や家族がお金を引出せるようにしておく契約です。
相続人が一人しかいない場合は私文書での作成も可能ですが、金融機関に専用の口座を開設する為、本人と親族とによる公正証書が必要となります。

本人は、資産全てを信託する必要はなく、自分が認知症になった場合に必要と思われる資産だけを対象にするなど自由度が高いです。
将来的に他界した場合も口座凍結することなく、葬儀費用などを支払うことも出来ます。

資産が凍結され、親の介護費用を親の口座から払うことが出来ず、支払いに苦労するケースも多い様です。
しかし、親も子もそんな事態を望んではいません。

早め早めに資産管理について話し合い、決めておきたいですね。
次回は、そもそも認知症にならないためにはどうすれば良いのか?
将来、大きな差を作る予防法についてお伝えします。

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