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【専門家インタビュー】今年の春は「過去10年で最多」との予想も!国民病「花粉症」にならないための対策は?症状を軽くする方法も

専門家インタビュー「花粉症」を防ぐ対策と症状を軽くする方法

冬の寒さが和らぎ、暖かな春の訪れを感じる季節になりました。木々の芽が少しずつふくらみ、草花が色づいていく姿に目を細めながらも、少し憂欝な気持ちになる方もいるのではないでしょうか。なぜなら春は、日本人の国民病とも言うべき「花粉症」の季節でもあるからです。今回の専門家インタビューでは、人が花粉症になるメカニズムや、症状を抑える方法、お子さまが花粉症になってしまったときの注意点について、花粉症の研究・治療の大家と呼ばれる医師・日本医科大学大学院教授の大久保公裕先生にお話を伺いました。 ※2023年3月時点での情報を基に解説していただいています。

目次


  1. なぜ「花粉」がくしゃみや鼻水、鼻づまりを引き起こすのか
  2. 花粉症にならないための方法はある?
  3. 対策1 花粉症による「QOL(生活の質)」の低下を防ぐために
  4. 対策2 子どもが花粉症になってしまったら
  5. まとめ

なぜ「花粉」がくしゃみや鼻水、鼻づまりを引き起こすのか

手振りを交えて話す大久保先生

――花粉症とはどのようなメカニズムで発症するのでしょうか?

大久保:人体は、体のなかにあるたんぱく質以外のものはすべて「異物」と見なします。

その異物のうち、ウイルスや細菌などの体に害があるものが侵入すると、体は「敵」と認識し、抗体を作り出して攻撃します。これを「免疫反応」と言います。本来、食べ物や微粒子など体に害のない異物に対しては起こらないのですが、体が「害のあるものだ」と誤った判断をすることで免疫反応が出てしまうのです。その一つが「アレルギー反応」であり、花粉に対して起こる場合には「花粉症」と呼ばれます。

――では、花粉に対するアレルギー反応が、くしゃみや鼻水となるのはなぜでしょうか?

大久保:たとえば、スギ花粉が鼻から体内に入ってくると、くしゃみで吹き飛ばす、鼻水で洗い流す、鼻づまりで体内に入れさせないようにする、など体が拒絶して排除しようとするからです。アレルギーというと、卵やミルクなどの「食物アレルギー」を想像する方もいらっしゃるかもしれません。基本的には花粉症も食物アレルギーも同じ原理です。アレルギーの原因物質である卵を食べると、嘔吐や下痢などの症状が出て、体外に排出しようとします。

花粉症でくしゃみ・鼻水が出るときのメカニズム(提供:日本医科大学大学院 大久保公裕教授) 花粉症でくしゃみ・鼻水が出るときのメカニズム(提供:日本医科大学大学院 大久保公裕教授)

――そもそもスギ花粉は有害なのでしょうか? 先ほど、体が有害だと見なしたものに対してアレルギー反応が起こると伺いましたが。

大久保:人体に著しい悪影響が出るほど有害とは言えません。実際に、花粉症になっていない方も同じように花粉を吸い込んでいるわけですから。

ただ日本の場合、戦後に国の植林政策でスギの人工林が増やされました。このことが、多くの花粉症の発症者を生んだ要因だと考えられています。成木となったスギが、子孫を残すために多くの花粉を飛ばしているわけです。これは、花粉症のなかでもとくにスギ花粉にアレルギー反応を起こす方が多い理由でもあります。

――花粉症で悩む読者にとって、「今年飛ぶ花粉の量が多いか少ないか」は気になる点だと思います。現状の予測はいかがでしょうか?  また、年によって「例年の○倍」など、花粉の飛散量が違うのはなぜでしょう?

大久保:2023年は、スギ花粉の飛散量が多いと言われていた2018年を上回り、過去10年で最も花粉が多いと予測されています。当然、スギの木は生命体なので、浴びた陽の光や雨の量によって、花粉を作り出す量には差が出てきます。2~3年休んで、今年は多く花粉を飛ばすなど、花粉を作るサイクルがあるのも、毎年の飛散量に差がある要因になっているのです。コロナ禍前の2019年から2022年の花粉飛散量は、比較的少なめでした。そのため、近年症状が軽かったという方も、今年は注意したほうが良さそうです。

花粉症にならないための方法はある?

ろ紙上に置かれた花粉を撮影した写真(提供:日本医科大学大学院 大久保公裕教授) ろ紙上に置かれた花粉を撮影した写真(提供:日本医科大学大学院 大久保公裕教授)

――そもそも植物は太古からあり、花粉も同様に昔からあったはずですよね。にもかかわらず、なぜ人体は花粉でアレルギー反応を引き起こすようになったのでしょうか?

大久保:その原因は、生活環境が変わり、私たちの体が変わったことです。現代の人間の遺伝子は100年前からほぼ変化していませんが、免疫だけは「環境から体を守るため」に変わり続けています。空気中の花粉の量や食生活をはじめ、環境の変化に合わせて変化しているわけです。体を守るために免疫システムが変わった結果、アレルギー反応が起こるようになったと考えられています。一般の方でも気軽に宇宙に行けるような時代が来たら、さらに免疫の形は変わっていくはずです。

――花粉症になるのを防ぐ方法はありますか?

大久保:「こうすれば花粉症にならない!」という方法はありません。しかし、免疫力を高める生活習慣によって、アレルギー疾患を抑えることはできます。日本の伝統的な食事や自然のなかで育った魚、野菜を食べるような暮らしをしている人は免疫力が高く、アレルギー疾患の人も少ないと言われています。また偏った食事にも注意が必要です。たとえば、食事のなかで蕎麦ばかり食べていると、蕎麦アレルギーになる可能性は高まります。バランス良く栄養を摂ることも大切なのです。

――では、花粉症になりやすいのはどのような方でしょうか?

大久保:花粉症になるかならないかを決める大きな要因は、「遺伝」と「環境」です。

遺伝という点では、統計上、両親が花粉症の場合は約7割の子どもが花粉症になるとわかっています。アレルギー疾患をもった人同士から生まれた子どもは、約6割が何らかのアレルギー疾患をもつという研究結果が出ているのです。一方、アレルギー疾患をもたない人ともつ人の子どもでは約4割、アレルギー疾患をもたない人同士の子どもでも約2割がアレルギー疾患をもつと判明しています。

環境面では、子どもの頃にどれだけ自然に触れていたかが影響します。多くの自然に触れて育った人は花粉症になりにくく、家のなかで長時間過ごしていたような人は花粉症になりやすいと言えるでしょう。

対策1 花粉症による「QOL(生活の質)」の低下を防ぐために

事例を挙げながら話す大久保先生

――風邪や新型コロナウイルス感染症、インフルエンザと比較して、花粉症特有の症状はありますか?

大久保:花粉症の症状として顕著なのは、「目のかゆみ」です。2~4月頃までの時期に、くしゃみ・鼻水・鼻づまりといった諸症状のほか、強い目のかゆみがあれば、ほぼ花粉症だと考えられます。一方、新型コロナウイルス感染症や風邪の場合は、咳や発熱などの症状がよく見られます。花粉症で咳が出ることはあまりないため、それが症状の違いと言えるでしょう。もちろん、ご自身で判断するのは危険なので、新型コロナウイルス感染症が疑われるようならまずご自宅で抗原検査などを行ってください。花粉症やその他の症状が出ている場合も、まずは医療機関を受診するのが良いでしょう。

――花粉症だと気づいたときに、まずすべきことを教えてください。

大久保:繰り返しになりますが、大原則は医療機関の受診です。正しい診断を受け、まずは「自分の体内で、何が起こっているのか」を知る必要があります。

そのうえで花粉症になってしまったら、まずはマスクやメガネで体を防御することが重要です。なるべく鼻の粘膜や目の結膜に付着する花粉の数を減らしましょう。

なお、花粉症の原因は、スギ花粉だけではなく、ヒノキやイネ科の雑草、ブタクサ、ヨモギなどもあります。アレルギーの原因物質がわかれば、それらの植物が花粉を飛ばす時期には近づかないなどの対策も可能です。だからこそ、医療機関で自分の体に何が起こっているかを原因とともに確認してほしいですね。

――花粉症の症状が出ても、できるだけ「QOL(生活の質)」を下げないために、必要なことは何ですか?

大久保:症状が軽い時期から治療を始めることが大切です。花粉の飛散量が増え、一度症状が重くなってしまっても、症状は徐々にしか改善できません。症状が進行しないよう、早めに対処するのが良いと思います。

――花粉症の薬物療法にはどのようなものがあるのですか?  副作用についても教えてください。

大久保:一般的に良く使われる薬は、アレグラやアレジオンなどの第二世代抗ヒスタミン薬です。これらはOTC医薬品としてドラッグストアや薬局でも買えるようになっています。一方、眠くなる・体がだるくなるなどの副作用がある点には注意が必要です。今は眠くなりにくい薬もありますので、医師や薬剤師と相談して、自分に合ったものを選んでください。鼻水などの症状がひどい場合は、ロイコトリエン受容体拮抗薬や鼻噴霧用ステロイド薬などが処方されます。ロイコトリエン受容体拮抗薬は、副作用としてまれに胃腸障害などが起こることがあります。

――大久保先生は、花粉症治療の一つである「舌下免疫療法」を開発したと伺いました。こちらはどういう治療法ですか?

大久保:先ほど、アレルギー反応は自分の体を守るために起こることをお伝えしました。特定の対象物質から体を防御するために症状が出るのであれば、その物質に慣れてしまえば良いという考え方に基づいて開発したわけです。具体的には、少しずつ口の中に「スギのエキス」を入れていって、「スギはあなたの体にとって安全な物質なんだよ」と教え込んでいきます。舌下免疫療法を行うことで、今まで、花粉30粒が体内に入ると花粉症の症状が出ていた人が、300粒まで耐えられるようになれば、花粉症は改善したと言えますよね。

つまりこれは、ワクチンと同じ考え方です。インフルエンザワクチンは、ウイルスの一部を注射して体内に免疫を作って症状が出るのを防ぎます。舌下免疫療法は、スギを使った、スギ花粉症のワクチンなのです。

花粉症のメカニズムと舌下免疫療法の具体的治療法(提供:日本医科大学大学院 大久保公裕教授) 花粉症のメカニズムと舌下免疫療法の具体的治療法(提供:日本医科大学大学院 大久保公裕教授)

――舌下免疫療法は具体的にどのような治療を行うのですか?  また副作用やデメリットはあるのでしょうか?

 大久保:治療薬の錠剤を舌の下に置き、決められた時間待って飲み込みます。2日目からは自宅でもできるので、負担が少ない治療法とも言えます。日本では今のところスギ花粉症とダニアレルギー性鼻炎にしか適用されていませんが、今後はほかの花粉症にも適用されていく予定です。副作用としては、口腔内のかゆみなどがあります。全身への副作用は少なく、アナフィラキシー(命に危険がおよぶほどの過剰なアレルギー反応)を引き起こす可能性もありますが、現時点では報告されていません。

対策2 子どもが花粉症になってしまったら

子どもの花粉症について語る大久保先生

――お子さまが花粉症にならないよう、親が気をつけるべきことはありますか?

大久保:外で遊べる環境を作ってあげることが大切です。花粉が舞っていて「花粉症によくないのでは?」と考える方もいるかもしれませんが、子どものうちからさまざまな細菌や微粒子に触れることで、結果的にアレルギー物質への許容量が多い体が作られていくのです。 ただし、両親がともに花粉症であるなど、子どもがアレルギーになりやすい体質だとわかっている場合には、花粉に必要以上に触れることのないよう、注意してあげる必要があります。

――花粉症の対策として、お子さまの寝室に空気清浄機を置くのは効果がありますか?

大久保:一定の効果があると言えます。空気清浄機は、床などに溜まった花粉を吸い込むことはできません。空気清浄機を置くなら、寝室よりも人が歩くことで花粉が舞い上がりやすいリビングが良いでしょう。寝室ならば、加湿器/加湿機のほうが効果的かもしれません。床などに溜まった花粉を湿気で舞い上がらないようにしつつ、寝ている間に粘膜を乾燥させないようにすることができます。これは、子どもに限らず大人でも同じことが言えます。

また、「子どもが花粉症になった場合、掃除を頻繁にしなくてはいけないのでは?」と懸念する親御さんもいるかもしれません。もちろん、できる限り掃除をするに越したことはありませんが、重点を置くとすれば花粉やホコリは部屋の四隅に溜まりやすいので、ここに注意するだけでも軽減できると思います。

――子どもの花粉症と大人の花粉症では、症状に違いはありますか? またお子さまが花粉症になったとき、注意してあげるべきことは?

大久保:症状に敏感な子どもでは、「かゆみ」を強く感じることがあります。我慢できずに顔を掻きむしってしまう可能性もあるので注意が必要です。とくに注意が必要なのは「目のかゆみ」で、目をこすり過ぎてしまうと、将来的に白内障を引き起こしてしまうこともあります。その場合、伊達メガネをかけさせるという対処方法もおすすめです。

まとめ

新型コロナウイルス感染症が流行したことで、花粉症の方は「くしゃみ」するのも気が引ける、と思うかもしれません。この3月からマスクの着用は「個人の判断に委ねる」とされましたが、花粉症の方にとっては身を守るためにも着用したほうが安心できそうです。

今回、大久保先生のお話から、花粉症のメカニズムや新しい治療法、医療機関を受診することの大切さ、さらに子どもの花粉症の注意点についてご理解いただけたと思います。花粉症は自己で勝手な判断をせずに、かかりつけ医などに相談し、早めに治療方針や対策を決めて実行していくのがベストと言えるでしょう。

  • 取材・文:庄子洋行
  • 撮影:竹下朋宏

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