【専門家インタビュー】私たちがとるべき「質の高い睡眠」とは!?ベストセラー『スタンフォード式 最高の睡眠』の著者・西野精治先生に聞く
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近年、「睡眠の質」が世間の関心を集めています。快適な寝具や入眠をうながすアロマなど、睡眠の質に関わる商品が注目を集めることも少なくありません。また、仕事が忙しいなどの理由で睡眠不足が続き、体調に不安を感じている方も多いのではないでしょうか。今回は、2017年に33万部を超えるベストセラーとなった『スタンフォード式 最高の睡眠』の著者であり、睡眠の重要性を説き続けている西野精治先生に、日本人の睡眠事情と眠りの質を向上させる方法について話を伺いました。※2023年4月時点での情報を基に解説していただいています。
日本における睡眠の問題点とは?
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――日本人の「睡眠」には、どのような問題があるのでしょうか?
西野:まず、「睡眠時間が短い」ことがあげられます。フランス人の平均睡眠時間が8.7時間、アメリカ人が7.5時間であるのに対し、日本人は6.5時間だというデータがあります。睡眠時間の一つの目安となる6時間に満たない方が、日本人の4割とも言われているのです。すなわち、日本人の多くが「睡眠負債」を抱えている状態だと言えるでしょう。自分の限界を超えてお金を借りると破産してしまうように、睡眠時間が足りず、睡眠負債がたまっていくと、体に悪影響が出て「眠りの自己破産」を引き起こしてしまいます。
またもう一つの問題として、十分な時間寝ているのに「寝不足を感じる」「スッキリ起きられない」という、主観的な睡眠不足を感じる人が多い点があげられます。睡眠障害の発生頻度は、民族には起因していないことがわかっているので、日本社会の問題だと言えるでしょう。
――十分な睡眠をとっているのに、なぜ睡眠不足を感じるのでしょうか?
西野:現段階では本人の「誤認」と解釈されていて、明確な理由はわかりません。しかし、新たな診断方法が見つかって詳しく調べられるようになれば、「睡眠の質が悪い」などの原因が見つかるかもしれませんね。
――睡眠の役割にはどんなものがあるのでしょうか?
西野:「脳や体の休息」に加え、「ホルモン・自律神経のバランスを整える」「免疫力の増強」といった役割があります。最近では、「脳の老廃物の除去」も寝ている間に行われていて、認知症の予防に一役買っていることがわかってきました。起きているときにできない体のメンテナンスを、睡眠時に行っているのです。
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――では、慢性的な睡眠不足が続いた場合、どのような支障があるのでしょうか。
西野:睡眠は、脳や体にとって非常に大切な役割を担っています。睡眠不足が続くと、生活習慣病やうつ病、認知症など体にさまざまな変化が起こってくるでしょう。それを裏づけるデータとして、2002年にアメリカで110万人を対象に行われた調査があります。「睡眠時間と死亡率の相関関係」について調査した結果、最も死亡率が低かったのは睡眠時間が「1日6.5~7.5時間」の人たちだということが判明しています。睡眠時間が「1日3~4時間」の人では彼らに比べて死亡率が1.3~1.4倍ほど上昇し、「1日10時間以上」の人も同様に高くなっていました。
――なかには「ショートスリーパー」と呼ばれる方々もいると聞きます。これはどのような人なのでしょうか?
西野:ショートスリーパーとは、睡眠時間が短くても健康状態を保てる人を指します。データからもそういう人が存在しているのは間違いありませんが、全体の1%未満であろうと予測されています。遺伝子の影響を大きく受けているものであり、誰もがなれるわけではありません。
質の高い睡眠をとるために必要な「睡眠12か条」とは?
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――どのような睡眠が「良い睡眠」と言えるのでしょうか?
西野:先ほどのショートスリーパーの例のように、眠りの型には個人差があり、性別や年齢によっても変わってきます。それを前提としつつ、「健康的な睡眠パターン」というものも存在します。睡眠の状態には、脳が起きているときと同じように活発に動いている「レム睡眠」と脳が休止して深く眠っている「ノンレム睡眠」の2つがあります。入眠直後に「ノンレム睡眠」が約90分間続き、その後に短いレム睡眠が訪れるまでを一つの周期として、朝までにそれが4~5回繰り返されます。明け方にはノンレム睡眠は起こらず、レム睡眠の時間が長くなっていくのが「健康的な睡眠パターン」です。最初の90分間がとくに重要な睡眠の役割を果たしていて、明け方は起きるための準備をしていると考えられています。この最初のノンレム睡眠の90分は、私たち研究者から「黄金の90分」と呼ばれているほど大切な時間です。
――では、「睡眠の質」を高めるためには、どのようなことをすると良いのでしょうか?
西野:健康的な睡眠パターンが乱れると、「目覚まし時計が鳴っても目が覚めない」「起きてもスッキリしない」「やる気が起きない」などの障害が生じます。睡眠というのは、「寝室の温度・湿度」「騒音・明るさ」「心の問題」など、さまざまな影響を受けるものです。良質な睡眠をとるためには、次の「睡眠12か条」を覚えておくのが良いでしょう。
【睡眠12か条】 ●朝の習慣3つ 1.仕事に合わせ、起床時間を固定する 2.起床後、太陽の光を浴び、活動量を上げる 3.バランスのとれた朝食を摂る(あたたかい汁物は覚醒を導く)
●昼の習慣3つ 4.状況が許せば、パワーナップ(15~30分程度の仮眠)をとる 5.コーヒーは、最大1日4~5杯程度(カフェイン400mg程度)で、午後の早い時間までとする 6.ジョギング・散歩などの有酸素運動は睡眠に良いが、就寝前はヨガやストレッチなど、軽い運動にする
●夜の習慣6つ 7.夕食は就寝前の2~3時間前までにとること。そして夕食後はリラックス 8.少量の飲酒にとどめる(お酒は寝つきを早めることが多いが、大量の飲酒は睡眠の質を悪くする) 9.寝室(エアコンで快適な温度、湿度)、寝具(通気性の良いもの)、環境を整える(就寝中は手足から熱を放散させ、深部の体温を下げる) 10.就寝90分前に入浴、あるいはすぐ寝るときはシャワーにする 11.就寝時間を固定する(起床時間から自分が必要とする睡眠時間で逆算) 12.夜寝る前ベッドでスマートフォンを見ない |
――「パワーナップ(15~30分程度の仮眠)をとる」という条項がありますが、昼の仮眠にはどのような効果が期待できるのでしょうか?
西野:十分な睡眠がとれていない場合、昼寝によって一時的にパフォーマンスを上げられることは以前からわかっていました。さらに調査の結果、30分未満の昼寝をする人は、しない人と比べて「認知症リスク」が約1/7まで下がることも判明しています。その時間もポイントで、30分~1時間だと認知症リスクは約1/2まで減りますが、1時間以上だと2倍に増えるという興味深い結果も出ています。つまり、短時間の昼寝には良い効果が期待できる一方、長い昼寝では悪影響が出る可能性もあるということです。
認知症だけではなく、糖尿病でも同じような結果になり、昼寝が人体にさまざまな影響をおよぼす事実を示していると言えます。
よって、夜間の睡眠が十分にとれない場合には、「30分未満の昼寝」を推奨しています。
子どもの「睡眠」の考え方について
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――ソナミラOnline読者のなかには、お子さまがいるご家庭の方もいらっしゃると思います。仕事をしながら家事や育児をしていると、文字通り「寝る間もなく」働かなくてはならない状態になりがちですが、睡眠の面で心がけるべきことはありますか?
西野:まとまった睡眠、とくに「黄金の90分」を確保できるように、ご家族でサポートし合うことが大切でしょう。
先にあげたアメリカの110万人を対象にした大規模調査の結果では、女性は睡眠時間が短ければ短いほど、肥満の傾向にあることも非常に話題になりました。その後さまざまな研究が実施され、睡眠時間が短いと食欲を抑制するホルモン「レプチン」が減少し、食欲を増進するホルモン「グレリン」が増加することもわかっています。体重の増加によって、生活習慣病リスクへの影響も大きくなるわけです。
また、女性には生理や妊娠・出産、更年期など、生涯を通じてホルモンバランスの変化があります。実際に悩みを抱えている方も少なくないでしょう。ホルモンバランスを整えるため、あるいは心身ともに健康な状態を保つためにも、十分な睡眠が必要です。
――子どもの睡眠について、大人との違いを教えてください。
西野:子どもの睡眠は、大人以上に重要とされています。子どもは「眠い」とか「昨日はあまり寝られなかった」などと訴えることが少ないため、お子さまの睡眠不足は見落とされがちです。
そのまま睡眠不足の状態が続くとどうなるかというと、イライラする、集中力が落ちるといった症状が出て、「ADHD(注意欠如・多動症)」と診断されてしまうこともあります。睡眠障害の治療によって、ADHDだと思われていた症状が消えたという事例も多くあります。
また、12歳未満の子どもは「レム睡眠」の時間が長いことがわかっています。これは脳の発達段階では自然な現象です。むしろ発達段階において必要な過程で、レム睡眠の間に脳の発達が促進されていると言われています。
――では、12歳未満のお子さまのいるご家庭では、どのようなことに注意すると良いでしょうか?
西野:ご家族が睡眠の大切さを学び、規則正しい生活をしていくことが、お子さまの健康を守ることにつながるのではないでしょうか。とある調査でも、ご家族の睡眠に関するリテラシーが低いとお子さまの睡眠にも悪影響がおよびやすいことが判明しています。
12歳未満という年齢は、学習の基礎や人間関係の作り方を学ぶ大切な時期です。お子さまの睡眠の質が低い場合、集中力の低下や学校の欠席率の増加にもつながっていることがわかっているため、注意してあげると良いでしょう。
――最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
西野:味方につけると心強く、敵に回すと恐ろしいのが、睡眠です。当たり前ですが、私たちは寝るために生まれてきたわけではなく、起きている昼の生活をより満ち足りたものにするために睡眠をとります。昼に「眠くてパフォーマンスが下がる」といった支障がない限りは、夜中に目が覚めてしまう、少し寝つきが悪いといった問題は些細なことです。「過度に気にする必要はない」ということも、覚えておいていただきたいと思います。
まとめ
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西野先生のお話から、良い睡眠の定義や、睡眠の質を高める方法、さらに子どもの睡眠で注意したいポイントなどについてご理解いただけたのではないでしょうか。
労働時間が比較的長いとされる日本社会において、睡眠の重要性は軽んじられがちかもしれません。しかし、睡眠負債がたまっていくと、睡眠の債務超過が起こり、重大な疾病のリスクを高めてしまう可能性もあります。
健康的な生活を長く続けるためにも、睡眠12か条を理解して、ぜひ習慣化してください。
- 取材・文:庄子洋行