――2023年春に解禁される「給与のデジタル払い」の概要を教えてください。
前川:現在、労働基準法では、賃金の支払い方法は原則「現金手渡し」、また労働者の同意を得た場合に銀行口座・証券総合口座への振込が認められています。
今回、第三の賃金支払い方法として、「資金移動業者」いわゆる「○○ペイ」などのキャッシュレス決済アプリや電子マネーの口座への振込という選択肢が追加されることになります。
――私たちの暮らしにも「キャッシュレス決済」はすっかり浸透してきました。この「給与のデジタル払い」について、お2人はどのように感じていますか?
本山:賃金を支払う側にとって支払い方法が増えることは、手続きがより複雑になり、手間がかかってしまうかもしれないと最初に感じましたね。
前川:「私は銀行払い」「僕はデジタル払いで」と希望の支払い方法が人によって変わってしまうと、企業側の手間が増えてしまうことは予想できますね。しかし、若い方のなかではキャッシュレス決済の文化が根付いてきて、「私は買い物に○○ペイしか使わない」という消費者も増えているといいます。そういった方たちには抵抗感がなく、受け入れられるのではないでしょうか。
――政府が「給与のデジタル払い」を解禁しようとするのはなぜなのでしょうか?
前川:コロナ禍によってもとめられるようになった「新しい生活様式」への対応として、人と人の接触を少なくできるキャッシュレス決済の推進・拡大が理由の1つに挙げられるでしょう。また、外国人など、日本で銀行口座を開きにくい方々などにニーズがあることも挙げられます。つまり、外国人労働者の受け入れ拡充の面でのメリットを狙っているのではないかと思います。
本山:厚生労働省は、労働者のニーズ調査において「キャッシュレス決済の利用者のうち、4分の1程度が『制度を利用したい』と回答した」と公表しています(※1)。今でも一定のニーズがあり、今後さらにニーズが増えていくと予想されることも給与のデジタル払い解禁の理由になっているのではないでしょうか。
※1 出典:厚生労働省「資金移動業者の口座への賃金支払について」P.40参照
――どのような決済アプリや電子マネーが「給与のデジタル払い」で使えるようになるのでしょうか?
前川:現段階で、全国の財務局などに登録されている「資金移動業者」が80社ほどあります。ここには「LINE Pay」や「PayPay」などがリストアップされていますが、「Suica」のような交通系ICカードは含まれておらず、また交通系ICの場合は入金できる上限額が低いため、給与のデジタル払いの対象とならないのではないかと考えられます。
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