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首相の掲げる「異次元の少子化対策」とは 出生数80万人割れの衝撃

少子化対策

「異次元の少子化対策」。岸田文雄首相は1月の年頭記者会見で、今年の重点課題としてこんな政策を掲げました。その内容と見通しはどうなっているのか。子どもを望む人が産みやすく、育てやすい社会になるのか。国の少子化対策の背景と展望、課題を解説します。

目次


  1. 子育ては「お金がかかりすぎる」
  2. 児童手当・サービス強化、育休充実の3本柱
  3. 実現には財源が課題 消費税率引き上げ論も

岸田首相が「異次元」との表現で危機感を示した背景には、少子化が急激に進む現状があります。昨年1年間に日本国内で生まれた子どもの数は80万人を割り込んだと報告され、1899年の統計開始以来最低になる見通しです。国立社会保障・人口問題研究所の予測より11年早く、1980年代前半のほぼ半分の水準となります。新型コロナが拡大する中、経済状況への懸念から、結婚や妊娠を控える傾向があったと考えられています。

子育ては「お金がかかりすぎる」

なぜ少子化が問題と言われるのでしょうか。少子化対策基本法は、少子化が進むことで「高齢者の増加とあいまって、我が国の人口構造にひずみを生じさせ、21世紀の国民生活に、深刻かつ多大な影響をもたらす」と指摘しています。具体的には、以下のような問題点が挙げられます。

  1. 労働力人口が減って経済成長が低下する
  2. 若者が減って社会の活力が下がる
  3. 年金や医療、介護、福祉で現役世代の社会保障負担がふえる
  4. 子どもの自主性、社会性などの発達が阻害され、健やかな成長に影響する
  5. 過疎化や住民サービスの低下により地域社会が変貌してしまう

一方で、若い世代にとっては「産みたくても産めない」という現状があります。国立社会保障・人口問題研究所が2021年に行った出生動向基本調査では、夫婦が理想とする子どもの人数が2.25人だったのに対し、夫婦が実際に予定している子ども数は2.01人。夫婦の最終的な子ども数を示す「完結出生子ども数」は1.90人と過去最低を更新しました。理想の数の子どもを持たない理由で最も多いのは「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」(52.6%)で、その次が「高年齢で生むのはいやだから」(40.4%)でした。経済的な理由と晩婚化が、少子化につながっていると言えそうです。

児童手当・サービス強化、育休充実の3本柱

「少子化」という言葉は1992年度の国民生活白書に登場し、政府の公的文書としては初めて解説・分析しました。すでに30年以上にわたる課題となっているのに、少子化に歯止めが掛かっていません。そんな中で岸田首相が掲げた「異次元の少子化対策」は、どのようなものなのでしょうか。具体的には、次の三つを柱としています。

  1. 児童手当を中心とする経済的支援の強化
  2. 幼児教育や保育サービスの強化
  3. 働き方改革の推進と、それを支える育児休業などの制度の充実

それぞれ、詳しく見ていきましょう。

一つめの柱は「経済的支援の強化」です。児童手当は現在、中学生までの子ども1人につき月額10,000~15,000円が支給されています。対象支給年齢を18歳未満まで広げることや、第2、3子に対しては金額を引き上げるべきだとする意見が与党から出ています。また、現在の児童手当には所得制限があります。例えば子どもが2人いる専業主婦家庭で、夫の年収が960万円以上の場合は5,000円に減額され、年収が1,200万円以上になれば支給対象外になります。この所得制限の撤廃を求める声もあります。

二つめの柱は「サービスの強化」です。保育所などの空きを待つ「待機児童」は現在、解消に向かっていますが、保育の現場は人手不足で余裕がありません。その要因となっている「配置基準」の見直しが焦点になっています。配置基準とは、保育士1人が担当できる子どもの数のことで、4歳、5歳児では保育士1人につき子ども30人と定められています。保育士の人件費は国や自治体が負担しており、配置基準をもとに計算した人数分しか出ない仕組みで、園側が保育士を増やそうにも増やせないのが現状です。配置基準が1948年に制定されて以降、4、5歳児の基準は一度も変わっておらず、見直しを求める声が出ています。保育の質を上げるためには、保育士の待遇改善も課題です。岸田首相は「全ての子育て家庭を対象としたサービスの拡充を進めます」と述べ、幼稚園や保育園だけでなく学童保育や病児保育、伴走型支援、産後ケア、一時預かりなども充実させる考えを示しています。

三つめの柱は「働き方改革や育児休業などの充実」です。現在は子どもが1歳になるまでとなっている育休期間の拡充や、雇用保険から支給される「育児休業給付金」の増額が検討されています。また、今の制度では雇用保険に入っていないフリーランス、自営業の人は育休中の給付金を受け取れません。こうした人たちに向けた新たな給付制度も検討されています。

これらの具体的な対策は、3月末までに取りまとめることになっており、内閣官房や財務省、厚生労働省などが1月に初めての会議を開きました。会議の座長の小倉將信こども政策担当相は「大胆な少子化対策に関するたたき台を作っていきたい」と話しました。4月に発足するこども家庭庁で検討が続けられ、政府は「将来的なこども・子育て予算倍増」に向けた大枠を6月に示すことになっています。

実現には財源が課題 消費税率引き上げ論も

ただ、どの少子化対策も、実現するにはお金が必要です。児童手当は年間約2兆円の費用がかかっており、所得制限撤廃だけでも1,400億円が必要と言われています。岸田首相は具体的な財源を明言していませんが、自民党の甘利明・前幹事長は、少子化対策の財源として、将来的な消費税率の引き上げに言及しています。

一方で国の動きをよそに、東京都の小池百合子知事は18歳以下の都民に月5,000円を給付することを表明しました。こうした独自の上乗せをする自治体はほかにもあり、自治体が国の少子化対策を補っている形ですが、住む場所によって子どもへの支援に格差が生じているとも言えます。

少子化は、未婚率の上昇や晩婚化といった社会構造の変化が大きく関わっています。一方で、子どもを望む人が安心して産み育てられる社会の整備が求められています。歴代政権が何十年も取り組んできた少子化対策が今度こそ「異次元」になり、産み育てやすい社会になるのかどうか、今後の議論に注目してはいかがでしょうか。

▼参考

  • 首相官邸HP「岸田内閣総理大臣年頭記者会見」
  • 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」「出生動向基本調査」
  • 日本学術会議「少子社会の多面的検討特別委員会報告」

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