マネー
読む目安6

死後離婚のメリットとデメリットは?遺産や遺族年金は受け取れる?

亡くなった配偶者の結婚指輪

死後離婚とは、「配偶者と死別した後に、配偶者の血族(義父母、義理の兄弟姉妹)との親族関係を終わらせる手続き」のことです。

死後離婚と言う名称は手続きの正式名ではありません。しかし、配偶者の死後に親族の関係を終わらせることから、一般的に死後離婚と呼ばれています。

 

では、この死後離婚にはどのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか。更に死後離婚した後に、遺産相続や遺族年金を受け取ることはできるのでしょうか。

 

結論を先にお伝えすると、遺産や遺族年金は受け取れます。

本記事では、この点について整理するとともに、そもそも死後離婚の目的や遺産相続が可能な理由、必要な手続きについても解説していきます。

目次


  1. なぜ死後離婚をするのか?
  2. 死後離婚する3つのメリット
  3. 死後離婚の3つのデメリット
  4. 遺産相続と死後離婚
  5. 遺族年金と死後離婚
  6. 死後離婚に必要な書類と手続き
  7. 配偶者との死別で、新たな悩みを生まないようにしましょう

なぜ死後離婚をするのか?

夫を亡くし、祈る女性

「配偶者の死後に関係を解消したい」これだけを聞くと、配偶者をどれだけ憎んでいたのかと思うかもしれません。しかし、死後離婚を選ぶ理由は他にあります。
死後離婚とは何を目的とした手続きなのでしょうか?また、近年、なぜこの死後離婚が増えているのでしょうか?

死後離婚とは何か

死後離婚とは、正式名を「姻族関係終了届」と呼び、姻族との関係を解消するための行政手続きです。

法的には、夫婦のどちらかが死亡した場合、婚姻関係は自動的に解消されます。しかし、一方が死別しても姻族関係は当然には終了せず、生存配偶者が姻族関係を終了させる意思表示をしなければなりません。これは民法第728条第2項に記載されています。
「姻族」とは、結婚した配偶者の血族のことをいい、義父母、義理の兄弟姉妹などが代表的です。

親族の名称

死後離婚は、配偶者と死別した後、これまでの姻戚関係を清算し、他人になる手続きです。
死後離婚と言う呼称を見ると、「離婚」という名称が付いているために、夫婦や子どもとの関係を解消することだと誤解する人も多いかもしれません。
しかし、姻戚関係以外は消滅せず、相続や遺族年金、子どもとの関係なども変わりません。

近年増えている理由

まだあまり聞き慣れない死後離婚ですが、近年はこの手続きを選ぶ人が増えています。
戸籍統計(種類別 届出事件数)平成22年度~令和4年度よると、2010年には1,911件でしたが、2022年は3,065件と約1.6倍になっています。
このように死後離婚が増加した大きな理由の1つは「嫁姑問題」です。

夫が存命である時点でも、嫁姑関係がうまくいっていないケースはよくあります。そこから夫が先に亡くなった場合、姑の介護を血縁関係のない嫁が看ることは心情的には難しいところがあります。

しかし民法上、特別の事情があるときは、3親等内の親族に扶養義務を負わせることができるとされており(第877条第2項)、姻族関係が続いている限り、義理の親に何かあったときには遺された妻が「介護」や「扶養」をする義務を負う可能性があります。
そのため、夫の死後、この姻族関係を解消したいと考える嫁がいてもおかしくはありません。

死後離婚が増えている、もう1つの理由は「少子化」です。
少子化の影響で子どもの数が減っている現代において、介護を兄弟で分担できないケースが増えています。
最近は夫婦共に一人っ子であるケースも珍しくはありません。この状態で夫婦どちらかが先立った場合、遺された人が亡くなった配偶者の両親の介護をすることになります。

もし、そこに自分の両親の介護まで加われば、自分一人に介護の負担が集中し、精神的にも経済的にも大きな重荷となることが推察されます。

介護の責任を負うリスク

そこで、このような場合も配偶者の親との姻族関係を解消し、他人となることで介護負担を回避できる死後離婚が注目されているのです。

死後離婚する3つのメリット

自由を感じる女性

死後離婚するメリットを3つ紹介します。

法的な婚姻関係の終了による効果

死後離婚のメリットは、手続きするだけで他人になれることです。姻族関係が解消されて、民法上の「扶養義務」を負うことがなくなり、法的に義理の親の扶養や、介護の心配をする必要がなくなります

例えば、義理の親から「介護して欲しい」と求められても、断りやすくなるでしょう。
実際に、義理の親に対する介護の義務感はあくまでも「婚姻によって姻族関係になったこと」が要因です。自己主張が苦手な人でも、他人になれば介護の要求を堂々と断れます。

また、義理の親と同居していたケースでも、死後離婚によって義理の親との同居を解消しやすくなります。

お墓の管理が不要になる

2つ目のメリットは、お墓の管理をしなくてもよくなることです。一般的に、配偶者と死別した場合は、遺された配偶者がお墓や仏壇などを管理することになります(第897条1項参照)。

この権利や義務を受け継ぐことは、「祭祀財産」の継承と呼ばれており、継承する人を「祭祀継承者」と呼びます。
お墓の管理義務を受け継いでしまうと、法要等の主宰を担うことになり、配偶者の地域や家庭環境によっては大きな負担になります。

例えば、継承したのが寺院の檀家のお墓なら、会費の支払いや活動の参加も必要です。このような場合でも、死後離婚をすることでお墓を管理する必要はなくなります。義理の親と同じお墓に入る必要もなくなります。

再婚しやすくなる

死後離婚を考える人の中には、「再婚を見据えて考え始めた」という人もいます。
実は、死別の場合は離婚届を出さずに再婚することができます。しかし、死別後、何も手続きせずに再婚すると、元配偶者の家族、現配偶者の家族の2家族と同時に姻族関係を持つことになります。

「姻族関係終了届」が受理されれば戸籍に「姻族関係終了」と記載されるため、姻族関係が解消されたことが誰の目にも明らかとなります*
そして、元配偶者の親族とは法的に他人になります。今の親族関係を整理し、身と心を軽くすることで、新しいパートナー探しや再婚が気兼ねなく行えるでしょう。

*妻の場合、夫の死亡後に「姻族関係終了届」を提出しても、戸籍は除籍しない限り亡き夫の戸籍に登録されたままになります。夫の姓から旧姓に戻す手続きは別途「復氏届」を提出する必要があります。

死後離婚の3つのデメリット

孤独に歩く女性

上述のとおり、配偶者の死後、新しい人生を歩もうと考える人にとっては死後離婚のメリットはとても大きいものです。
しかし、デメリットはないのでしょうか。3つご紹介します。

取り消しができない

死後離婚のデメリットは、手続き後の取り消しができないことです。死後離婚で姻族関係を一度終了させてしまうと、撤回はできず、同じ姻族関係を二度と復活させることは不可能になります。

自分に親兄弟や子どもがいない場合、義理の家族との関係を断ち切ると天涯孤独の身になる恐れもあります。
後でそれに気づいて、死後離婚を取り消したくても、元には戻せません。どうしても姻族関係を戻すには「養子縁組」が必要になります。
しかし、それでも以前とまったく同じ関係には戻れません。

姻族との関係や縁が切れてしまう可能性がある

2つ目のデメリットは、姻族関係がなくなるので、義理の親や親族との縁が、完全に切れてしまうかもしれないことです。

元配偶者の親族との人間関係にもよりますが、戸籍上は姻族関係がなくなるため、姻族の集まりに呼ばれなくなることも考えられます。
また、姻族に理解を得てから手続きをせず、一方的に関係を断ち切った場合、顔を合わせたときに気まずい思いをするかもしれません。

子どもへの説明が必要なケースもある

子どもがいる場合、死後離婚したことで親子関係に溝ができる可能性もあります。
それは、子どもが親の事情に合わせた結果、その後の親族との微妙な関係に困惑するケースです。姻族関係にあった従妹等と距離ができてしまうことも考えられます。

子どもから見れば、親の一方が亡くなった後に、わざわざ姻族関係の解消をすることは理解できないことかもしれません。
子どもにネガティブな印象を与えないためにも、しっかりと子どもに状況を説明することが大切です。

遺産相続と死後離婚

喪服を着た考える女性

次に気になるのが遺産相続についてです。
冒頭で結論を書いた通り、死後離婚をしても相続の権利に影響はなく、亡くなった配偶者の遺産を相続することができます。
そこで、遺産相続や受け取り方について以下に解説します。

死後離婚しても婚姻関係に影響しない

死後離婚は、あくまでも亡くなった配偶者の親族との法的な関係を終了させる手続きであり、亡くなった配偶者との婚姻関係に影響するものではありません。
ですから、亡くなった配偶者の「遺産を相続する権利」は残ります。
つまり、遺産を相続した状態で死後離婚しても、遺産を後で返還する必要はないのです。

死後離婚をした場合の遺産の受け取り方

日本における死後離婚は、配偶者との婚姻関係や相続権には影響を及ぼしません。
遺産相続は、概ね次のような手順で行われます。

  1. 被相続人の死亡
    亡くなった配偶者(被相続人)の死亡によって遺産相続が開始されます(民法第882条)。
  2. 相続人の確定
    相続人は配偶者、子ども、両親などが該当しますが(民法第886条以下)、死後離婚を行っても、配偶者は引き続き相続人としての資格を持ちます。その後、相続できる財産(預貯金や不動産等)を特定します。
  3. 遺産分割の協議
    遺産分割の協議の場には、死後離婚を行った配偶者も相続人の一人として参加することができます(民法第890条)。
  4. 遺産分割協議書の作成
    通常どおり遺産分割協議書を作成し、全ての相続人が署名、押印します。
  5. 登記手続き
    通常どおり遺産分割協議書に基づいて登記手続きを行います。

死後離婚をした場合の遺産の受け取り方は、以上のような流れとなっていて、通常の手続きと変わりません。
しかしながら、遺産分割の協議の段階で、死後離婚が姻族との関係性や協議の進行に影響を与えることは十分あります。「他人」となった被相続人の配偶者に対して、被相続人の血族である他の法定相続人が、協力的でない、不信感を持つなどといったことがあり得ます。

遺族年金と死後離婚

通帳を見る喪服姿の女性

遺産相続とあわせて押さえておきたいのが「遺族年金」です。
死後離婚をしてしまうと、遺族年金を受け取れないと思われがちですが実は違います。死後離婚をしても支給の要件を満たしていれば遺族年金をもらうことが可能です。

遺族年金をすでにもらっている場合は、死後離婚の後も継続して受給することができます。死後離婚が理由で遺族年金を止められたり、減額されたりすることはありません。

遺族年金の基礎知識

まずは、遺族年金の基本的な知識について押さえましょう。
遺族年金とは、公的年金制度に加入している方が亡くなったときに、遺された人の生活を支えるために支給される年金のことです。

生計を共にする配偶者や子どもが遺族年金を受け取れます。国民年金からは「遺族基礎年金」、厚生年金からは「遺族厚生年金」が支給されます。
遺族年金は配偶者の死後、自動的に受け取れるわけではありません。必要書類を揃えて請求する必要があります。

死後離婚後の遺族年金の資格とその受給条件

死後離婚をしても遺族年金の受給資格に影響を及ぼすことはありませんが、下記に該当すると、遺族年金の受給資格を失います。

  • 配偶者が再婚する場合
    配偶者が再婚すると、遺族年金の受給資格を失います。
  • 子供が一定の年齢に達するか、結婚する場合
    子供が年金受給の年齢制限を超えるか、結婚すると、受給資格を失います。
  • 所得が一定額を超える場合
    遺族年金の受給者に一定額以上の所得がある場合、受給資格を失うことがあります。
  • 死亡
    配偶者が死亡した場合、受給資格を失います。
    死後離婚では受給資格を失いませんが、死後離婚後に再婚すると受給資格は無くなるので注意が必要です。

死後離婚に必要な書類と手続き

姻族関係終了届

ここでは、死後離婚に必要な書類を確認します。

各書類の届け先

死後離婚は行政手続きです。そのため、死後離婚を行うための「姻族関係終了届」は、自分の本籍地もしくは住所地のある市区町村役場に、必要書類と併せて提出します(戸籍法第96条)。
期限の定めはなく、死後何年経っていても提出することができます。また、届出にあたって、姻族の承諾は特に必要ありません。

「姻族関係終了届」が受理され、死後離婚が成立しても、子どもや配偶者の親族に役場から連絡がいくことはありません。
ただし、戸籍には姻族関係終了と記載されます。戸籍謄本を請求すると、死後離婚をしたことが、親族や子どもに知られてしまうことになります。

届出に必要な書類

「姻族関係終了届」を提出する際に必要な書類は次のとおりです。

  • 姻族関係終了届
  • 亡くなった配偶者の死亡事項が記載されている戸籍(除籍)謄本
  • 届出人の現在の戸籍謄本(提出先が本籍地の場合は不要)
  • 届出人の印鑑
  • 本人確認書類

手元にない書類がある場合は、事前に必要書類を請求しておきましょう。

配偶者との死別で、新たな悩みを生まないようにしましょう

頭を抱える女性

配偶者と死別することは非常に大きな悲しみを抱えることになります。これまで頼っていたパートナーがいなくなるため、さまざまな悩みが出てくることでしょう。

一方、姻族との関係は、配偶者が亡くなることで疎遠となってしまうことも珍しくはありません。
このような中で、民法に縛られて、亡くなった配偶者の両親の介護や看護の責任を負うのは、あまりに大きな負担です。
この責任に応えられない場合、今回ご紹介したような死後離婚という選択肢を知っておくのはとても大事なことです。

一方、親世代は「子どもたちが結婚をしているから、将来の面倒は息子夫婦にみてもらえそうだ」と安心をしていられないかもしれません。
長くなった人生においては、子どもが先に亡くなることや、子どもが先に要介護状態になる可能性もありえます。

この場合、子どもたちが自分達の面倒を看ることができないケースも考えられるのです。子ども以外に、自分の介護をしてくれる施設や相談できる人を考えておく必要があるかもしれません。実はそのようなときに役立つのが「生命保険」です。

自分の親の介護が心配ならば、自身に万一のことがあった場合の死亡保険金受取人を、親にしておくことが有効かもしれません。こうすれば、高齢の親にまとまった死亡保険金が行くので、介護の面倒を看てもらうための資金になります。
自分自身が介護になることが不安であれば、民間の介護保険に加入することで、いざというときに子供の配偶者に頼ることがないように準備することもできます。

長寿の時代だからこその新たな課題。
将来の親の介護や自分の介護について、あらゆるリスクを織り込んで考えていくことが大切です。

ソナミラではコンシェルジュが、人生100年時代のライフプラン設計のお手伝いをしています。何をどうやって準備したらいいか悩んだ際は、まずはソナミラのコンシェルジュと話をしてみてはいかがでしょうか。

関連タグ

結婚

まもなく開催するセミナー

  • すべて