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【2024年】介護保険法の見直しでどう変わる?改正内容や変更による影響

談笑する介護士と車椅子に乗る高齢者

2024年度に「介護保険法」が改正されました。介護保険法とは、介護保険制度の給付負担額や介護施設の運営基準といったもろもろの決まりを定めているものです。介護を取り巻く環境や介護ニーズに適したサービスを高齢者が受けられるよう、介護保険法は定期的に改定されます。本記事では、介護保険法で今回の見直される内容、その影響についてお伝えします。

 

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目次


  1. 介護保険法の見直しが行われる背景
  2. 【2024年】介護保険法改正の概要
  3. 介護保険法改正による影響と課題
  4. 今後も介護保険の見直しは必要不可欠

介護保険法の見直しが行われる背景

手を取っている様子

まず、介護保険法の概要と見直しが行われる背景について確認していきます。

介護保険法改正の概要

前述したように、介護保険法とは「介護保険制度」について定めた法律です。介護保険制度は2000年4月に始まったもので、介護や支援が必要な人が介護給付・予防給付などのサービスを1~3割の負担で受けることができる公的な制度です。

また、介護保険法は介護を取り巻く社会の状況を踏まえ、質の高い介護のサービス提供ができるよう、3年ごとに改正されます。そして2024年4月以降に介護保険法の改正が行われることになりました。

見直しが行われる背景

介護保険法が2000年4月に施行されてから6回の法改正が行われています(2005、08、11、14、17、20)年)。今回の改正は、2025年問題、2040年問題に向けた法改正になると考えられています。

なお、厚生労働省によると、2025年には団塊の世代(1947~1949年生まれ)がすべて75歳以上となり、75歳以上の人口が全人口の約18%に達します。そして2040年には65歳以上の人口が全人口の約35%になると推計されています。
以上の状況から、介護が必要な人口が増えると予想されるため、介護保険法が改正されることになりました。

【出典】
厚生労働省「令和6年度介護報酬改定について 令和6年度介護報酬改定の概要 ○令和6年度介護報酬改定の施行時期について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_38790.html
厚生労働省「介護保険制度の概要」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/gaiyo/index.html
厚生労働省「我が国の人口について 人口の推移、人口構造の変化」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_21481.html
内閣府「第1章 高齢化の状況(第1節6(1))」
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2008/zenbun/html/s1-1-6-01.html

【2024年】介護保険法改正の概要

記録をしながら話を聞く介護士

2024年度の法改正は、今後介護が必要になる人が増加し、それに伴って介護人材が不足するという問題に対処できるよう検討されています。ここでは主な改正ポイントを6つ紹介していきます。

複合型サービスの創設

看護小規模多機能型居宅介護(看多機=かんたき)とは、小規模多機能型居宅介護による3つの介護サービス「通所介護(通い)」「短期入所(泊まり)」「訪問介護」に加えて「訪問看護」が受けられる複合型サービスです。看多機は市区町村から指定された事業所がサービスを提供できる地域密着型サービスとして位置づけられていました。地域密着型サービスは、原則としてサービスを受けられるのはその市区町村の被保険者に限られます。

今回の改正で、地域密着型サービスとしての位置づけから、法律的に明確に位置付けられた複合型サービスという位置づけに変更になりました。要は、法的に「通い」「泊まり」でも、看護サービスが受けられるようになります。

では、なぜこの「複合型サービス」を創設することになったのでしょうか。厚生労働省の第222回社会保障審議会介護給付費分科会(web会議)によると、介護サービス量は今後も増加し続ける一方で、介護の人材が不足しているとしています。

また、訪問介護と通所介護を併用する要介護者は、要介護認定者全体の46.7%となっており、訪問介護と通所介護を一体的に提供できる仕組みが必要になっています。

これまでの仕組みは、訪問介護と通所介護を提供する事業者が違うため連絡調整が煩雑で情報の共有が容易ではありませんでした。また、ケアプランへの反映にも時間がかかるなど、適切なケアマネジメントを行うことが難しい状況でした。

今回の法改正で複合型サービスが創設されることにより、利用者が柔軟にサービスを受けられるようになります。訪問介護と通所介護での情報共有や、貴重な人材の有効活用も見込めるでしょう。

介護予防支援事業所の拡大

「介護予防支援」とは、介護の度合いが軽度者である要支援1または要支援2の認定を受けた要支援者が、状態の改善や重度化防止を目的として、自宅で介護予防サービスなどの自立支援を受けられるようにケアプラン作成などのサービスを受けることです。

これまで介護予防支援は地域包括支援センターが担ってきましたが、法改正により2024年4月から地域包括支援センターに加えて、居宅介護支援事業所(ケアマネ事業所)も市町村からの指定を受けて介護予防支援を実施できることになりました。

その背景には、市町村の住民のニーズへの対応や利用者に対する対応の充実など、地域包括支援センターの業務が増大したことが大きな要因です。地域包括支援センターが住民への支援をより適切に行う体制の整備を図ること、つまり地域包括支援センターの業務軽減が目的です。

財務状況の見える化

これまで、社会福祉法人・医療法人は財務状況の報告・公表対象となっていましたが、株式会社や合同会社などの介護事業者は対象外となっていました。しかし今回の法改正で、2024年4月から原則すべての介護サービス事業者を財務諸表の報告・公表の対象とすることになりました。

すべての介護事業者の経営を可視化することで、実態をより正確に把握・分析し、3年に1度行われる介護事業経営実態調査をより精度の高いものにすることができます。また、介護職員の処遇改善や介護報酬改定に向けて国が必要な情報を得られるメリットもあります。

ただし、国は事業者ごとの財務状況を公表するわけではなく、属性ごとに区分した分析結果を公表することになっています。

高齢者の住まい・生活支援

厚生労働省では、団塊の世代がすべて75歳以上となる2025年を目途に地域包括ケアシステムの構築を目指しています。地域包括ケアシステムとは、高齢者が要介護状態となっても住み慣れた地域で人生の最後まで暮らし続けることができるよう、地域が一体となり支援を提供するシステムです。

2025年以降の医療や介護の需要増に備え、在宅系サービス(訪問介護・訪問看護・通所介護・短期入所生活介護・複合型サービスなど)や施設・居住系サービス(介護老人福祉施設=特養、介護老人保健施設、認知症共同生活介護、特定施設入所者生活介護など)により、介護が必要になったときに在宅または施設へ入所して介護を受けられるように整備していく予定です。

科学的介護情報システム「LIFE」の活用

厚生労働省が管理・運営する科学的介護情報システム(LIFE)とは、2021年の報酬改定で新設された情報システム・データベースです。

介護施設・事業所が作成・記録した利用者の状態やケアの実績等のデータをLIFEのシステムへ入力すると、入力内容を分析して介護施設・事業所にフィードバックされます。その情報を基に計画書や実施するケアの改善に活用することでPDCAサイクルを好循環させ、質の高いケアにつなげていくことが期待されています。

文書負担軽減のためのフォーマットの標準様式化

2024年4月より、「介護サービス事業者等が都道府県知事又は市町村長に対して行う指定の申請や変更の届出等」は、厚生労働省の「電子申請・届出システム」により提出することになりました。

この改正により、行政や介護現場の業務効率化が進みます。今までは地域ごとに様式の違う書類で処理していましたが、様式の統一化で介護サービス事業所の事務作業負担が軽減するとともに、地域ごとに決められていた独自ルールの統一につながります。

【出典】
厚生労働省「看護小規模多機能型居宅介護(複合型サービス)について 1.看護小規模多機能型居宅介護(看多機)とは」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000091038.html
厚生労働省「第222回社会保障審議会介護給付費分科会(web会議)資料 【資料3】新しい複合型サービス」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_34837.html
厚生労働省「第109回社会保障審議会介護保険部会の資料について 配布資料一覧 資料及び参考資料 資料3-1 改正介護保険法の施行等について(報告)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_36525.html
厚生労働省「地域包括ケアシステム」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/
厚生労働省「科学的介護情報システム(LIFE)について 3LIFEの導入、入力と評価方法、利活用のマニュアル ケアの質の向上に向けた科学的介護情報システム(LIFE)利活用の手引き」
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000198094_00037.html
厚生労働省:ケアの質の向上に向けた科学的介護情報システム(LIFE)の利活用に関する事例集
https://www.mhlw.go.jp/content/12301000/001103589.pdf
厚生労働省「第14回社会保障審議会介護保険部会介護分野の文書に係る負担軽減に関する専門委員会 資料 当日配付資料 参考資料2 介護保険法施行規則の一部を改正する省令等の公布等について(通知)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_32677.html

介護保険法改正による影響と課題

説明をする介護士

ここまで、介護保険法改正の概要をお伝えしてきました。ここでは法改正されることによる影響と課題を確かめます。

介護保険法改正が与える影響は?

今回の法改正によって、地域包括支援センターに加えて居宅介護支援事業所が介護予防支援を担い、より多くの要支援認定者が介護予防サービスを利用できるようになり、介護の進行を遅らせることができます。

また、報酬改定では処遇改善加算が一本化されたことで、介護職員等の人員配置基準が柔軟になりました。加えて複合型サービスの創設、同一事業所内で訪問介護サービスと通所介護サービスを提供でき、介護と看護サービスが同時に受けられるほか、煩雑だったサービス変更などの手続きがスムーズになるメリットもあります。そして「電子申請・届出システム」により、介護事業者の事務負担が軽減されると考えられます。

介護保険法改正の課題は?

今回の法改正で、各事業所では新たに情報システムの整備や、新サービス導入などの対応が必要になります。人材が不足している事業所では、法改正による対応に大きな負担が生じることも考えられます。

たとえば電子申請の導入は事務作業が効率化されますが、導入初期の段階では現場スタッフが今まで通りの業務をこなしながら新しい事務作業を習得するため、一時的に業務量が増加します。また、財務状況の公表に向けた作業もこれまでの業務に追加されます。人手不足が常態化している事業所では、今回の法改正で大きな負担が発生することになります。

また、介護職員に対する賃上げが実施されましたが、介護業界で働く人に対する、さらなる処遇改善を進めていくことも今後の論点となります。

【出典】
厚生労働省「令和6年度障害福祉サービス等報酬改定の概要」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_37772.html

今後も介護保険の見直しは必要不可欠

介護保険法の概要、見直しが行われる背景をお伝えしてきました。
今後も高齢化が進む見通しである日本では、政府・自治体・介護事業者・利用者やその家族が連携して、より良い介護が実現できるよう介護保険制度の見直しをしていかなければいけません。

今回の改正を巡っては、要介護1、2の認定者が受けられる訪問介護や通所介護などの介護サービスを総合事業へ移行すること、ケアマネジャーが作成するケアプランの有料化なども審議されました。結論として今回は見送りになりましたが、介護保険法は3年に1度改正されるため、今後も変更が加わることが見込まれます。今後も介護保険制度改正には注視が必要です。

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