社会人が数学を学び直すならどこから?オススメの学習法や本を紹介
近年、データサイエンティストという職種が注目を集めています。
それはデジタル化の進展に伴い、膨大な量のデータが生成されるようになったことと関係しています。企業は生成された多くのデータから顧客が求めている価値を見出し、戦略的な意思決定を行いたいと考えています。そこでデータ分析をもとに洞察に富んだ提言をする人が必要になってきているのです。
このように経営陣や企業のリーダーシップ層は、膨大なデータを適切に処理する能力をもつ人材を求めています。そのため向上心のある社会人の中には、もう一度数学を学び直そうという人が出てきています。もしかしたら、あなたもそのひとりかも知れません。
この記事では、今後ますます必要とされてくる数学を学び直す意味や方法についてご紹介していきます。
数学は誰にでも役立つもの?
膨大なデータが蓄積される現代において、データを短時間で読み解く力は、今後の社会生活において必須の能力です。またビジネスで交渉を行う際も数学的思考は重要です。どんなに巧みな言葉でプレゼンができる人であっても、論理の破綻した構成では相手を説得することができないからです。論理の組み立てにおいて、数学的思考が大きな役割を果たします。
つまり数学は多くの分野において、仕事の質に直結する学問だといえます。このように実践で役に立つ学問であるにもかかわらず、なぜ数学を深く学ばずにここまで来てしまったのでしょうか?
大人が数学の重要性に気づくきっかけ
中学時代、高校時代に「数学が苦手だった」という人は少なくないはずです。そのときは「数学が何の役に立つのか?」と考えた人も多いことでしょう。しかし、そのような人の多くは、大人になってから「数学の重要性」に気づくようです。
そのきっかけは、資格試験で必要になったとか、子どもに学校の勉強について質問された、といった些細なことが多いようです。
一方で、この記事でお伝えしたい「大人になってから数学を学ぶ理由」は、子どもの前で恥をかかないためではありません。もっと現実的な課題解決のためです。前述したとおり、数学そのものが仕事上で役立つことはもちろん、数学に直接関係のない仕事であっても、数学の勉強をとおして、交渉力を身につけることができるからです。
社会人が数学を必要とする場面
仕事上、数学に直接関わっていないと思っていても、実は数学的な思考を必要とする場面は多々あります。
特に、統計やグラフを扱う際、数学的なバックグラウンドがあると、より高度な分析が可能になるでしょう。例えば平均値を求めるだけでなく、標準偏差を理解することでデータのばらつき具合がわかるようになります。データに対して異なったアプローチをかけることで、様々な発見をすることができるのです。同じデータを使って分析をしていても、他の人よりも深い考察結果を得られます。これができると、周りからの目も変わってきます。
文部科学省も重視する統計学
数学の中でも、特に統計に関する能力は、文部科学省も重視しており、2021年の学習指導要領の改訂では中学数学において「データの活用」という単元を中心とした変更となっています。
同じく高校数学においても「データの分析」「統計的な推測」といった新しい単元が登場しています。
今の中学生、高校生たちは、将来このような数学的アプローチが必要になるだろうという予測のもと、学校教育を受けています。
あなたがすでに学校教育を終えた、現在30代、40代の社会人であるならば、数年後には、このような教育を受けた若い世代と、肩を並べて仕事することになります。同じ社会の中で、そして同じ会社で働いていく上で、勝ち抜くためにも5年後、10年後を見据えたキャリア戦略が必要です。それが「大人になってからの数学の学び直し」の必要性にもつながっています。
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どこから数学を学び直すのか?
そうはいっても、あれだけ苦手だった数学、「どこから学び直せばいいの?」とお考えの人も多いと思います。まずは自分の数学レベルを把握し、どこまで遡って学習すべきかを考えていきましょう。
現在の数学レベルの把握方法
数学を学び直す上では、まず現在の数学力を正確に把握する必要があります。
学生時代にそれなりに数学が得意だった人も、10年ぶりに教科書や問題集を開くと意外と忘れていることに気が付きます。
また前述したように、学習指導要領は数年ごとに更新されています。自身が学生だったときには学習していない単元が新しく追加されているということもあります。そして、新しく追加された単元こそ、10数年前では考えもしなかった、今の時代に必要な知識となっている場合が多いのです。
そこで、現在の数学レベルを把握するには、「数学検定試験」の問題を解いてみるのがよいでしょう。
数学検定試験は、各級ごとに学習内容と対象の学年が対応しており、例えば、3級であれば中学3年生相当、準2級であれば高校1年生相当というように、総合的な数学力を測ることが可能です。
それぞれの級では、1次試験(計算技能検定)、2次試験(数理技能検定)と分かれているので、そもそも計算方法は習得できているのか、考え方や証明問題は理解できているのかなど、分野別で習熟度を確認することができます。
数学検定のホームページには、各級の問題と模範解答がダウンロードできるようになっているので、まずはそちらに取り組んでみるのがよいでしょう。
合格基準となっている6〜7割程度の正答になるようであれば、その学年・級の数学は問題ないと言えます。
【参考】数学検定HP https://www.su-gaku.net/suken/
中学・高校の数学の基礎を復習する方法
教科書(もしくは教科書ワーク)のような、基礎から解説をしているテキストで、忘れている定理、法則、考え方などを確認しながら練習問題に取り組むと良いでしょう。しかし、教科書の練習問題だけでは、実践力を身につけるのに十分とは言えません。その後、それぞれのレベルに応じた問題集を繰り返し解くことで、理解が定着します。
数学の具体的な学習方法と書籍の選び方
自分の数学レベルを確認できたら、より深く学ぶための具体的な方法を見ていきましょう。
数学の参考書や問題集の選び方、オススメの書籍
学習をするときの書籍は、基本事項を確認する「参考書」と、問題演習に取り組む「問題集」をそれぞれ準備するのが定石です。中学数学までであれば、参考書と問題集が1冊にまとまったものもありますが、高校数学では、学習範囲が広がるため参考書と問題集は別物と考えるべきです。
学校で使われている「教科書」を購入したい場合は、学校図書を扱っている「町の本屋」や大型書店などで取り寄せることになります。また教科書に完全対応した「教科書ワーク」を使うのもよいでしょう。
中学・高校のカリキュラムに沿って、数学の復習をしたい場合は、自分のレベルに応じた問題集を購入するのがよいでしょう。このとき「少しだけ高いハードルを用意する」ことが大切です。この考え方は、どの勉強方法でも変わりません。かけ離れたレベルの問題では、モチベーションを維持することが難しくなります。
参考書として、「語りかける中学数学(著: 高橋一雄)」「語りかける高校数学(著: 高橋一雄)」は、数学が苦手な人が学び直しに用いるにはお勧めです。
高校数学の問題集としては、数研出版の「チャート式」が有名です。このような有名な問題集は、問題解説サイトなどが充実しており、分からない問題を質問する際にも伝わり易い構成となっています。
「新体系 中学数学の教科書(著: 芳沢光雄)」、「新体系 高校数学の教科書(著: 芳沢光雄)」は、一般的な学校のカリキュラムを再編した数学の教科書です。文部科学省が定めたカリキュラムに捉われず、学年を横断して単元の解説を行なっているので、ある程度数学力に自信のある人が学び直しをするには、最適な書籍と言えます。
数学書籍の効果的な使い方
上記で紹介した「チャート式」の問題集は、辞書のように分厚い本です。これは様々な例題が網羅的に掲載されているためです。
ページ構成は、1ページ内に例題とその解き方、後半に練習問題となっており、実際に勉強する際に解くのは、後半の練習問題です。
もちろん何も見ずに、自分の力で問題が解ければよいのですが、どのように解き進めればよいのか分からないということが度々出てくるでしょう。
そのときは、同じページの例題の解き方を参考にします。例題と練習問題は、同様の解法で考えることができるようになっているので、それをじっくり見比べながら、考えるとよいでしょう。
オンラインサイトや無料動画の活用方法
新課程の「チャート式問題集」は、数研出版の公式ホームページで、解説動画を観ることができます。各ページにQRコードが記載されているので、それを読み込むことで解説動画のサイトへアクセスできます。
ここで紹介したのは、チャート式ですが、近年の受験生向けの問題集、参考書では、無料の動画解説がセットになっていることが多くあります。そのため、問題集、参考書は古本ではなく、最新版を購入するほうが結果的に効率の良い学習につながります。
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身につけた数学が直接的に役立つ仕事とは?
数学を活用する仕事はいろいろあります。冒頭に挙げたデータサイエンティストは今人気の職種ですが、この他にもシステムエンジニア、プログラマーなどの職種があります。これらの職種は論理的な思考力を用いてシステムの設計を行います。
また近年では、セイバーメトリクスという分析手法がプロ野球で用いられて脚光を浴びています。野球の戦術や選手の評価を統計的に分析し、評価、戦略、経営などに活かします。野球の世界だけでなく、スポーツの世界では、このような統計学を用いた選手の育成や評価、戦術の考案は広がりつつあります。
また、数学を通じて金融工学に興味を持った人には投資や保険の分野でも活躍ができます。例えば、生命保険には保険数理という職種があり、アクチュアリーという資格をもった人が統計学を駆使して保険商品の設計を行います。アクチュアリー試験は、司法試験や公認会計士試験と並ぶ難易度の高い資格であり、社会的地位の高い仕事でもあります。現在、金融業界で働いていない人が挑戦するにはハードルが高い分野ですが、数学を通じて金融に興味が持てたのであれば、営業職から始めてみるのも良いかもしれません。金融未経験の人でも、お客さまと接することが苦にならず、数学的思考から順序だてて説明ができる人であれば十分に活躍できる職種です。
大人が数学を学ぶ際の注意点
忙しい大人が数学を学び直すためには、どのようなことに気を付けたらよいのでしょうか?
大人の数学学習における難しいポイント
大人になってからの数学の学び直しの難しい点は、「大人向け」と銘打った参考書がないことです。
したがって、数学の学び直しをする多くの人は、受験生が使う参考書を用いて学習することになります。数学の基礎を学習する際にはまったく問題はありませんが、ある程度学習が進んできたら「自分は何のために数学の学習をしているのか」ということを振り返る必要があるでしょう。
この振り返りをしないで学習をしていると、受験問題を解き進めることと変わらなくなり、だんだんと苦痛になってきます。もちろん受験問題を解くことで、より発展的な数学の力をつけることは可能ですが、学び直しの目的は受験ではない場合が多いのではないでしょうか。
仕事をする上で数学の学び直しをしているのであれば、基礎的な数学力が身についた段階で、より実際の業務に近しい学問へ進まねばなりません。それは人によっては「プログラミング」かもしれませんし、あるいは「金融工学」かもしれません。常に先を見据えた学習を行うように心がけましょう。
数学学習に向けたモチベーションの維持方法
大人の数学学習では、モチベーションの維持が大切です。学生であれば、クラスメイトと一緒に同じ授業を受けて、分からない問題があれば質問をしあって、学習を進めることができます。大人になってからは、同じような目的を持った学習者が少ないため、モチベーションを維持する工夫が必要になります。その工夫の方法をいくつかご紹介します。
一つ目は、検定試験の合格を目指すということです。「数学検定試験」の合格を目標にすれば、今の自分のレベルや学習状況などを掴みやすく、各級の合格・不合格・得点状況から、次の学習のプランを考えることもできます。
二つ目は、数学に関する書籍を読むことです。ただし、ここで言う書籍は、参考書や問題集ではなく、読み物となるものです。数学の歴史や数学者の逸話などを紹介した本があるので、そのような本を読むのも良いでしょう。問題を解けるようになることも大切ですが、同時にどのような時代背景からこの定理が生まれたのか、という情景を知ると数学の学習がさらに楽しくなります。
お勧めは「フェルマーの最終定理(著: サイモン・シン)」や「天才の栄光と挫折: 数学者列伝(著: 藤原正彦)」などです。数式なしで読むことができるので、演習問題の合間の気分転換として読むのが良いでしょう。
最後に、実際に他の方と交流できるコミュニティを探すという方法です。お住まいの地域などにもよりますが、大学や日本数学検定協会などが一般向けの数学イベント・講義を開催していることがあります。そのようなイベント、講義に積極的に参加するのも、学習のモチベーションを維持するためには良いでしょう。
まとめ
大人が数学を学び直す意義についてみてきました。数学を学ぶことで、これまでデータから見えていなかった事象が見えてきます。またその事象を説明する根拠も同時に手に入れることができます。人前で話をする機会がある人は、相手を説得する力を養うことができます。
また、近年の中学・高校の数学ではデータや統計を扱った単元が充実しています。若い世代と一緒に仕事を行う際に「学校で習っていないから分からない」となってしまわないように、学び直す必要もあります。
数学学習の効果
中学・高校の数学を一通り学び直すと、そこからはさらに専門的な学習に進むことになります。数学の基礎を理解していれば、単なる数式の丸暗記ではなく、その原則にまで理解が及ぶため、総体的に見れば効率的な学習へとつながっているはずです。
ここまで実感できれば、それぞれの専門分野で数学を活かす方法も見つかっていることでしょう。ひょっとすると、自分の目指すキャリアもはっきりとしてきているかもしれません。
オススメの数学学習教材や参考書の紹介
この記事内で紹介した数学教材をまとめておきます。
- 実用数学技能検定過去問題集 日本数学検定協会 (編集)
級ごとの過去問題集です。数学の理解度や習熟度・レベルを把握することにも、その後の学習としても活用ができます。
- 語りかける中学数学 高橋 一雄 (著)
- 語りかける高校数学 高橋 一雄 (著)
比較的優しく解説をしてくれている教科書です。数学は苦手だったという人は、こちらをベースに学習するとよいでしょう。
- 新体系 中学数学の教科書 芳沢光雄 (著)
- 新体系 高校数学の教科書 芳沢光雄 (著)
大人の学び直し数学として、学習単元やカリキュラムを再編した教科書です。学生時代は数学が得意だったと言う方が、忘れていることを思い出すために学習するのに良い書籍です。
- チャート式参考書シリーズ 数研出版 (https://www.chart.co.jp/goods/sugaku_list/chart.html)
もともとは受験生向けの問題集ですが、学び直しに活用することもできます。
- フェルマーの最終定理 サイモンシン (著) 青木薫 (翻訳)
- 天才の栄光と挫折: 数学者列伝 藤原正彦 (著)
上記2つは、数学の学習用ではありませんが、数学の歴史を知ることができますので、「何のためにこの考え方が生まれたのか」といった数学を学ぶモチベーション維持につながる良書です。息抜きとして読んでも良いと思います。