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【30代からの学び直し】国の進める「賃上げ」は本当に実現するの⁉経済学の視点から給料アップの仕組みをひも解く

【30代からの学び直し】国の進める「賃上げ」は本当に実現するの⁉経済学の視点から給料アップの仕組みをひも解く

『年収の壁』についてもマスターしたし、自分の成長を感じるぜ。知識は力なり!」。そう叫んでいるのは、「学ぶ意欲」は誰にも負けないものの、少し迷惑な男「金尾学(かねおまなぶ)」。

目次


  1. 意外と知らない「賃金」の決まり方とは?
  2. 賃上げができるのは大企業だけ!?中小企業や非正規雇用労働者の進むべき道は
  3. 日本人の将来をバラ色にする制度とは?
  4. まとめ

金尾:あとは「103万円の壁」を突き抜けて億万長者になるだけだ。フッフッフ。

馬渕:まずは就職しましょうねー。お疲れさまでーす。

金尾:先生、待ってください!収入について思い出したことがあります!

そう、金尾が声をかけた相手は人気経済アナリストの馬渕磨理子(まぶちまりこ)さん。

馬渕: (だから先生じゃないってば)なんですか?金尾さん

金尾:会社員の先輩が、国が進める「ちんあげ」の影響で、「俺も給料がアップしたんだ」と言っていたんですよ!これって僕にとっても、給料アップのチャンスですよね?

馬渕:給料アップも何も、金尾さん、働いていないじゃないですか。

金尾:給料上がれ!わっしょい!わっしょい!

馬渕:…何をしているんですか?

金尾:え?「ちんあげ」って、日本原産の小型犬「狆(ちん)」を高く掲げる、金運アップのお祈りのことでは…?

馬渕:…。

わかりにくすぎるボケをかます金尾はさておき、今回の「30代からの学び直し」では、経済アナリスト・馬渕 磨理子さんに、「賃上げ」について経済学の視点からわかりやすく解説していただきます!

<登場人物紹介>

馬渕 磨理子さん

馬渕 磨理子さん

一般社団法人 日本金融経済研究所 代表理事。コメンテーターとしてテレビ各局に出演し、ラジオ番組のレギュラーも持つ人気経済アナリスト。通称「うまちゃん」。

 

金尾 学

金尾 学

30代のとにかく学びたい男。学ラン姿にグルグル眼鏡のトラディショナルスタイルが特徴。いかにも真面目そうな外見だが、その実態は…?

 

意外と知らない「賃金」の決まり方とは?

意外と知らない「賃金」の決まり方とは?

馬渕:…。

金尾:何か言ってください…。

馬渕:…。

金尾:ごめんなさいぃぃぃ!「ちんあげ」についても教えてくださいぃぃぃ!(子犬のぬいぐるみを突き上げて)

馬渕:もう仕方ないですね。では、注目を集めている「賃上げ」を解説していきましょう!

金尾:お願いしますぅぅぅ!

馬渕:まず「賃上げ」とは、企業から従業員に支払われる賃金がふえることです。今、政府からの要請もあって、大企業を中心に多くの企業が「給料アップ」を発表しています。

金尾:給料が上がれば、欲しいものが買える!最高!

馬渕:金尾さんは、どうして就職しないんですか?

金尾:だって、社会人になると一日中働いて、上司の機嫌を取らなくちゃいけないですよね?そんな型にはまった大人にはなりたくないんです!

馬渕:でも、働かなきゃ給料はもらえないですよ?

金尾:馬渕先生…‼就職がしたいです……。

馬渕:バスケがしたいです、みたいに言われても。

金尾:でも給料が上がり続けているなら、がぜんやる気がでますね!僕が就職する頃には、初任給で豪邸が建つかも(キリッ)。

馬渕:もちろん賃金が上がるのはいいことですが、経済学の視点から見ると、そんなうまい話ばかりではないんです。

金尾:ナ・ン・デ・ス・ト?

馬渕:まずは、賃金が決まる仕組みを学びましょうか!

金尾:給料って会社が勝手に決めているんじゃないんですか?

馬渕:経済学には、個別企業などを始めとした小さな視点から見る「ミクロ経済」と、国全体などの大きな視点から見る「マクロ経済」があります。

まず「ミクロ経済」の視点から解説すると、企業の経営者の考え方で賃金は変わります。

金尾:社長が、太っ腹かケチかってことですか?

馬渕:そんな簡単な話でもないんです。会社の利益がふえても経営者が「いざというときにお金がないのはリスクが高い。だからできるだけ内部にお金を残しておきたい」と考えると、給料はなかなか上がりません。このお金は「内部留保」と呼ばれ、日本企業全体では500兆円を超えると言われています。

金尾:ご、ごひゃくちょー!?

馬渕:一方、経営者が「優秀な人材を確保したい」「流出を防ぎたい」と考えていれば、給料は上がっていく傾向にあります。

金尾:僕のような優秀な人材は、給料が高い会社を選びたいですね!

馬渕:この経営者の心理には、「マクロ経済」もリンクしています。バブル崩壊やリーマンショックの影響で多くの企業が倒産したことを考慮すると、経営者が内部留保としてお金を蓄えておきたいと考えるのも仕方がないかもしれません。

また、金融機関がお金を貸し出すときの金利が上がれば、企業はお金を借りにくくなります。そうすると、「コストカットのために、人件費を抑えよう」となる可能性が高いでしょう。反対に景気が良い状況が続くと、「給料を上げて、どんどん人を雇おう」となるわけです。

また、賃金には「物価」も大きく関わっています。今、物価は上がっていますよね?

金尾:いろいろなものの値段が高くなって、生活は大変です…。

馬渕:消費者として物価上昇は厳しいものですが、企業の立場だと「商品の価格が上がる」と「利益はふえる」ことになります。利益がふえた分を経営者が従業員に支払うことで、賃金が上昇するのです。経済全体から見ると、日本は物価上昇に伴い、賃金も少しずつ上がり始めている状況と言えます。

金尾:なるほど!

馬渕:実際に、経団連が5月に発表した「大手企業の月給の賃上げ率」は、平均3.91%(※)と30年ぶりの高水準になりました。

2023年春季労使交渉・大手企業業種別回答状況(一般社団法人日本経済団体連合会)

金尾:30年ぶり!どうしてそんなに長い間、賃上げがされていなかったんですか!

馬渕:長いデフレ時代を経て、「値上げにならないのは仕方がないこと」といったデフレマインドが染みついていたのが要因だと思います。また、値段を上げると消費者が買い控えをする可能性もありました。こうして物価が上がらないので、企業はコストカットを重視し、人件費や原材料費を安く抑えるためのアクションに集中してしまったのです。

そして消費者も、給料が上がらないからより安いものを求めるように…。さらに500兆円を超える内部留保も、こうしたデフレのなかで長い年月をかけて貯まっていったものと言えます。

金尾:でもようやく給料が上がってきて、日本の景気に光が見えてきましたね!

馬渕:そうとも言い切れないんですけどね…。

金尾:え!?みんな給料が上がって「バンザーイ」じゃないんですか?

賃上げができるのは大企業だけ!?中小企業や非正規雇用労働者の進むべき道は

賃上げができるのは大企業だけ!?中小企業や非正規雇用労働者の進むべき道は

馬渕:問題は2つあります。1つは、「名目賃金」は上がっていても「実質賃金」は下がってしまっているという、良くない状態が指摘されていることです。

金尾:メーモク賃金とジッシツ賃金?

馬渕:「名目賃金」とは、実際に会社から通帳に入金された金額のこと。「実質賃金」は、物価変動の影響も考慮して算出した賃金を指すものです。

賃金が3年間で3万円アップして月23万円を受け取っている人の場合、国内の物価がその間に大きく上がって、同水準の生活にもかかわらず支出が5万円以上ふえていたら、3年前と比較して金銭的な余裕は減っていますよね。

金尾:つまり、今は物価が上がっているから…。

馬渕:ええ。実質的に給与は下がっている状態です。消費者が購入するものやサービスの物価の動きを示す消費者物価指数という指標があります。この2023年1月の結果は、前年同月比で4%超なので、給料も同等に上がっていないと、実質的には賃下げになってしまいます。

金尾:ガーン!でも、賃上げ率が平均3.91%ならほぼカバーできているんじゃ?

馬渕:そこが2つ目の問題点なんです。今回の賃上げは、あくまでも大企業の話で、中小企業では大幅な賃上げは実現されていないケースが多いと考えられます。また、非正規雇用労働者の賃上げも一部大企業のみで、多くの企業では進んでいないと見られているんです。

金尾:大企業だけが…。賃上げは、手が届きそうで届かない、空にまたたく星のようなものなのか…。

馬渕:何をロマンチックに言っているんですか。中小企業の多くは、商品価格を上げても円安による影響やエネルギー価格の高騰分を反映するのが精いっぱい。利益をふやすのが難しいという事情があるわけです。政府が不合理な格差が起こらないよう監視しているものの、中小企業は大企業に対し、原価などの高騰分を価格に上乗せするための交渉がしづらい立場にあると言えます。

金尾:大企業と中小企業でますます差が広がりそうですね!それなら優秀な僕も、大企業に就職したい!

馬渕:金尾さんが優秀かはともかく…。大企業も優秀な人材を求め、給料でほかの企業と差をつけようとしています。たとえば、ユニクロはグローバル企業として賃金を国際水準に近づけることで、マネージャークラスの人材を獲得しています。

イオングループでは、派遣やパートタイムの待遇を改善し正社員と同等の給料にする方針を示しました。「従業員を大切にする」という姿勢が評価されています。

金尾:大企業ばっかりずるい!中小企業はどうすれば生き残れるんですか?

馬渕:商品に付加価値をつけて適正な値段で売り、しっかりと利益を出して給料に反映させることが、これから大切になってくるのではないでしょうか。

長いデフレ期間を経て、消費者のマインドも変わりつつあります。世界的にもインフレが進み、「値上げは仕方ない」と現状を受け入れる日本企業もふえたように見えます。

金尾:なるほど!では、金尾にはどのような付加価値をつけると高く売れるでしょうか?

馬渕:ふざけての発言かもしれませんが、良い質問です。人に付加価値をつけるなら、資格取得がその代表例としてあげられるでしょう。

金尾:資格取得か…!付加価値をつけて、正しく評価されるようにがんばります!

馬渕:大企業の下請けをしているような中小企業も同じです。自分たちが磨いてきた技術を評価してもらい、適正な価格で売る必要がありますね。

 あとは管理部門などをIT化して、コストを削減することです。適材適所と言える人材配置とIT活用などによるDX化を進め、業務を最適化する工夫が必要だと思います。金尾さんは、どのような会社なら働きたいと思いますか?

金尾:うーん、遊んでいても高い給料がもらえてー…。

馬渕:マジメに。

金尾:や、やっぱり、社会の役に立っている企業ですかね!

馬渕:そう!企業の理念とか、仕事のやりがいを重視する人も多くなっています。人材確保という面では、具体的な仕事内容との世の中への影響を軸に訴求するのも一つだと思います。

あとは、人事評価のシステム。成果を出せば出すほど給料が上がるとか、能力に適した給料をもらえることが、従業員のやりがいにもつながります。

金尾:(ふう、危なかった…)そうですよね!

日本人の将来をバラ色にする制度とは?

日本人の将来をバラ色にする制度とは?

金尾:日本の景気回復には、物価上昇と賃上げが必要というのはわかりました。でも、物価さえ上がらなければ賃上げも必要ないんですか?実質賃金は変わらないんですよね。

馬渕:その物価が上がらない状況が、まさにこの30年間だったわけです。30年の間で、日本に何が起こったか。まず給料が上がらないと、将来が不安になるので国内の消費に対する意欲も減退していってしまいます。また、子どもを作らないという選択をする夫婦がふえ、少子化が進んでしまいました。国の人口と経済は密接な関係にあるので、経済成長が妨げられてしまいます。

金尾:少子化の原因にもなるんですか…。

馬渕:その間も、海外では物価上昇と給料アップをしていますからね。より良い賃金を求めて、優秀な人材が海外に流れる可能性もあります。

金尾:なんと!日本自体が、今の中小企業のようになってしまうとは。

馬渕:だからこそ、日本ならではの強みや日本で働くメリットを作り、製造業だけではなく、農業、観光業などの付加価値をつけた「稼げる産業」をふやしていかなければならないんです!

金尾:景気アップと日本企業の「賃上げ」を進めるために、国がやるべきことはあるんですか?

馬渕:雇用形態によらず、働いただけの十分な対価がもらえるように、国が制度をさらに整えていく必要があると思っています! 

たとえば、2020年4月から「同一労働同一賃金制度」が施行されました。同じ職務であれば、正社員でも派遣・パートタイムでも、同じ賃金を支払うことが必要になります。非正規雇用労働者が、正当な賃金をもらえるようになる施策です。

しかし、一般社団法人日本人材派遣協会が派遣社員を対象に行ったアンケート調査によると、「過去1年間の派遣就業中に給与が上がった」と回答した人は24.9%と4人に1人程度しかいないことがわかっています。

金尾:実感できるほどの影響は出ていないというわけですね。

馬渕:あとは、企業を国が評価するような制度があってもいいでしょう。

金尾:企業を国が評価するんですか?

馬渕:適正な賃金を支払っている企業かどうかを国や地方自治体が判断して、優良な企業をサポートするための制度ですね。国が優良な企業だと証明すれば、中小企業でも優秀な人材を獲得しやすくなる可能性があります。取引先からの信頼も得やすくなり、良い循環が生まれるのではないでしょうか。

金尾:なるほど!では、「賃上げ」のために、働く側は何を意識するといいですか?

馬渕:現行の雇用制度を知ることが重要です。「適正な賃金を受け取ること」は働く人にとって当然の権利なので、制度を知り、必要なときには権利を主張するのも大切です。

金尾:よし!僕も適正な賃金を要求していきます!

馬渕:まずは…。

金尾:働いてからにします…。

まとめ

まとめ

金尾が子犬を高く掲げることから始まった、今回の「賃上げ」についての解説。日本全体の「賃上げ」にはまだまだ厳しい状況はあるものの、法整備によって、今後の日本経済や新しいビジネスの開拓にとっての伸びしろはまだあることがわかってきました。では最後に、学びのポイントを整理してみましょう!

  • 「賃金」は、そのときの経済状況と、利益を「内部留保」するか「従業員に還元」するかという企業の意思決定によって変わってくる
  • 2023年は、大企業を中心に30年ぶりの「大幅な賃上げ」が始まった
  • 名目賃金は上がっても、日本社会全体の実質賃金が追いついていない可能性がある
  • 中小企業・非正規雇用労働者の「賃上げ」はあと回しになりがち。中小企業は、DX化や適材適所となる人事で業績アップを図るべし
  • 適正な賃金が支払われるための、国による法・制度整備に期待

経済アナリスト・馬渕 磨理子さんの解説で、「賃上げ」の仕組みと日本の現状が見えてきたのではないでしょうか。「賃上げ」を実現するには、私たち一人ひとりが賃金の仕組みや制度をよく知る必要があります。

ぜひ今回の記事を、ご自身の「幸せな暮らし」のために必要な「お金」と「賃上げ」について考えるきっかけにしてみてください。

  • 取材・文:庄子洋行
  • 撮影:豊島望

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