相続放棄できないかも!すぐに故人の携帯を解約したらダメな理由
相続放棄は、相続人(相続を受け継ぐ人)が被相続人(相続財産を遺して亡くなった人)の権利や義務を一切受け継がない法律行為です。
この相続放棄は比較的簡単にできる手続きですが、手続きの前に亡くなった人の携帯電話の契約を解約してしまうと、相続放棄できなくなる可能性があります。
身近な人の死とそれによって起こる相続は、誰もが直面する可能性のある出来事です。その時、悲しみに暮れながらも、故人が契約していたものを解約し、無駄な出費を抑えておこうと考えるのは、ごく自然な行動です。
しかしその結果、相続放棄という選択が出来ず、遺産分割事件に巻き込まれてしまっては元も子もありません。
本記事では、故人の携帯電話の解約を行う前におさえておくべきポイントや、相続放棄の基本的知識を解説します。
相続放棄という選択肢を潰してしまわぬよう、事前に知識を身に付けておきましょう。
相続放棄をする人の数
最高裁判所事務総局「司法統計年報3家事編」によると、相続放棄の受理件数は年々増加していることがわかります。
2022年に相続放棄の申述をした人の数は約26万人でした。年間の死亡者数も増加傾向であるため、相続放棄を選択する人の数が増えること自体は理解できます。
一方で、遺産分割を巡り全国の家庭裁判所に持ち込まれる審判・調停の件数が、年間1万5千件前後であることと比べると、約17倍の件数にものぼり、相続放棄が多いことがわかります。
更に遺産分割協議の件数が近年横ばいであることを踏まえると、「相続に関して、相続放棄を選択する人が増加傾向である」と言ってもよいでしょう。
相続放棄とは
相続放棄とは被相続人の財産や債務についての権利義務関係を一切放棄する法律行為です。
通常、相続する際は被相続人の持つ「権利・義務」の両方を承継します。そのため、預金や建物等の財産だけではなく、借金などの債務も相続することとなります。
しかし、相続放棄を選択した人は、その相続についてはじめから相続人とならなかったものとみなされます。そのため、被相続人の資産を一切引き継がないのと同時に債務も一切引き継ぎません。
相続放棄を選択するケース
相続放棄を選択する理由は様々ありますが、大きく分けると次のようなケースが想定されます。
➀ 相続財産に負債が多いことが明らかな場合
➁ 他の相続人との争いごとに巻き込まれたくない場合
③ 被相続人が経営者であった場合に、自社株等の財産を分散せずに特定の相続人に承継させたい場合
③は両親が事業経営をしていて、その事業を円滑に承継させるために行われる行為*でもあるため、一般的に考えると①と②がよくあるケースでしょう。
* 放棄しても次順位の法定相続人がいる場合は、その人が相続人となるので注意が必要です。
相続放棄の手続きの流れ
相続放棄の手続きは主に以下の4つの手順で行います。
➀ 相続財産の調査をおこなう
相続放棄を選択するかどうかを判断するためには、被相続人の預金や株式、建物などの資産や借金などの負債がどの程度あるのか把握する必要があります。
➁ 相続放棄の必要書類を集める
相続放棄を選択する場合、手続きを行うためには、被相続人の住民票、相続放棄の申述を行う相続人の戸籍謄本などが必要となります。
③ 「相続放棄申述書」を提出する
続いて「相続放棄申述書」を作成します。
「相続放棄申述書」のフォーマットは、裁判所のホームページから入手できます。提出先は、被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所です。家庭裁判所に出向いて提出するか、郵送で提出します。
④ 相続放棄の証明書を発行してもらう
「相続放棄申述書」が裁判所に受理されると、数日〜2週間程度で、裁判所から「照会書」が送付されます。「照会書」の項目に回答して裁判所へ返送すると、「相続放棄申述受理通知書」が発送され、手続きが完了します。
この「相続放棄申述受理通知書」は、相続放棄の申述が受理されたことを公的に証明する書面なため、大切に保管しましょう。1度しか発行されません。他方、「相続放棄申述受理証明書」は、放棄した人や利害関係人がいつでも家庭裁判所に申請できます。回数に制限はありません。
相続放棄の注意点
相続人は、相続開始を知ってから3か月以内に、単純承認・限定承認・相続放棄のいずれかを決めなければいけません(民法915条)。
単純承認・限定承認・相続放棄について整理すると、以下のとおりとなります。
【単純承認】
現金や株式等の金融資産や土地・建物といった財産も、借金などの負債も、相続分に応じて相続する方法です。
3か月の期間内に相続放棄も限定承認もしなかった場合は、単純承認を選択して相続したことになります。
また、相続人が遺産分割協議前に「相続財産の全部又は一部を処分した場合」も、単純承認を行うのと同じ効果が認められます(民法921条1号)。
【限定承認】
故人の相続で得る財産の範囲内で債務を相続する相続の形態です。
被相続人の債務が明らかでなく、財産が残る可能性がある場合に行われます。ただし、相続人全員が共同で申述する必要があります。
【相続放棄】
被相続人の財産も負債も一切引き継がない相続方法です。相続人一人一人が個別で判断することができます。
限定承認と相続放棄は、相続開始を知ってから3か月以内に行うのが原則ですが、その期間を超えて検討をする場合、裁判所への申述により伸長することが可能です。どの程度、伸長期間を設けるかは、申立書にその理由とともに記載するのが通常です。
故人の携帯電話を解約すると相続放棄が認められない?
裁判所により相続放棄の申述が却下されるケースはほとんどありませんが、相続人の行動によっては相続放棄が認められないケースがあります。
この相続放棄が認められないケースの1つに、民法921条1号が規定する「相続財産の全部又は一部を処分した場合」があげられます。
ここでいう、「相続財産の全部又は一部を処分した場合」とは、「財産の現状や性質等を変更、財産権の法律上の変動を生じさせる行為」を指します。具体的には、「売却・贈与・廃棄・損壊」はこれに該当するといえるでしょう。
相続人が故人の携帯電話の契約を解約してしまうケースは「相続財産の全部又は一部を処分した場合」に該当しないとする見解もあるものの、必ずしもそうではないと断定もできません。そのため、相続前に被相続人の携帯電話の契約を解約してしまうと「相続財産を処分した」と判断され、単純承認したと判断されるリスクがあるのです。
他にも、「相続財産の全部又は一部を処分した場合」とみなされる可能性がある行為に以下があります。
● 被相続人のアパートやクレジットカードを解約する行為
● 被相続人の調度品などを処分する行為
● 被相続人の預金を自分自身の治療費の支払へ充当する行為
どれも知らないと、ついうっかり行ってしまいそうなことばかりです。
亡くなった人の携帯電話の契約はどうすればいい?
故人の携帯電話の解約や本体の処分等は、慎重に決めるようにしましょう。以下、それぞれのパターンを解説します。
相続することが明らかな場合
故人の財産を相続することが明らかな場合で、遺産分割においても揉める要素がないのであれば、解約しても良いでしょう。
相続するか不明な場合または相続放棄する場合
相続するかしないか決めかねている場合や、相続放棄を検討している場合は、故人の携帯電話の解約はやめておいた方がよいでしょう。
これまで述べてきたとおり、単純承認したとみなされる可能性があるためです。
例えばauを運営するKDDIでは、相続放棄をした場合、故人の携帯電話の利用料金の支払い義務は無くなると明記しています。それぞれの携帯電話のキャリアへ相続放棄する意思を伝え、案内に沿った対応をすると良いでしょう。
携帯電話の名義変更もいったんやめるべき
携帯電話の契約を解約するのではなく、名義変更し、契約を継続した場合はどうでしょうか。
携帯電話の名義変更手続きについても同様で、相続放棄を検討している場合は避けた方がよさそうです。
先述のとおり、「相続財産の全部又は一部を処分した場合」というのは、「財産の現状や性質等を変更、財産権の法律上の変動を生じさせる行為」を指します。
携帯電話の名義変更は、「財産権の法律上の変動を生じさせる行為」に該当する可能性が高く、単純承認を行ったとされる可能性が高くなります。
「故人の携帯電話の利用料金がもったいない…」と感じて名義変更をしようと考える気持ちも分かりますが、迷っている場合はそのままにしておいた方がよいでしょう。
携帯電話本体の処分はすぐに行わない
さらに、単純承認・限定承認・相続放棄いずれの場合であっても、携帯電話本体の処分(廃棄・売却等)は避けた方がよさそうです。
「売却・贈与・廃棄・損壊」が「相続財産の全部又は一部を処分した場合」に該当するためです。また、その後の遺産分割協議での資産の配分にも影響する可能性があります。
携帯電話に限らず、その他の財産もひとまず保管し、予期せぬトラブルを避けるようにしましょう。
相続放棄をしてももらえる財産がある
相続放棄を選択すると、財産が一切受け取れないという印象を持ちがちです。
ところが、相続放棄をした場合でも生命保険金の受取人に指定されていれば、死亡保険金を受け取ることができます。
民法上、相続財産は「亡くなった人に関する財産に関する権利と義務」とされます。一方、生命保険金は、生命保険契約に基づいて受取人が保険会社から受け取るお金であり、「受取人固有の財産」として扱われます。
相続に影響するのは相続財産のみであるため、生命保険金は相続の対象になりません。
相続財産に活用しづらい不動産(所有者不明土地など)がある場合などは、相続人に相続放棄という選択をしてもらうことも、今後は必要な手立てかもしれません。そのときに、特定の相続人にお金を遺しておきたいということであれば、生命保険を活用すると良いでしょう。
金融のプロにも相談しよう
相続放棄を裁判所へ申述している人は年間約26万人で、遺産分割協議の件数の約17倍にもなっています。
相続放棄の手続きは難しくはないものの、3か月以内に資産の全容を把握しなければならず、判断にも迷いが生じがちです。
心配であれば、財産を相続する可能性のある人と生前から財産について話し合っておきましょう。話し合いの中で、相続人が相続放棄する可能性が高いのであれば、今回ご紹介したように、携帯電話の解約をすぐに行わないようにすることなども、事前に話しておくとよいでしょう。
相続放棄をした場合でも受け取ることができる生命保険は、遺族に遺産を遺す手段として活用できます。相続を考えた場合は、生命保険に関しても改めて見直しをしておくと安心です。
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▼参考
相続の放棄の申述
出典:裁判所「相続の放棄の申述」
裁判所の管轄区域
出典:裁判所「裁判所の管轄区域」
携帯電話の契約者が亡くなった場合の手続き例
出典:KDDI「契約者が亡くなった場合の手続きについて知りたい」
ソナミラ株式会社 金融商品仲介業者 関東財務局長(金仲)第 1010号