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世帯分離とは?介護保険料が安くなる?メリットやデメリット

目次

介護保険制度について調べていると、「世帯分離」すると介護保険料や介護にかかる費用が安くなると聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。近年では高齢化が進み、2025年には団塊の世代(1947~1949年生まれ)がすべて75歳以上となるため、75歳以上の人口が全人口の約18%になり、認知症患者もさらに増加すると予想されています。

介護の問題はさまざまですが、世帯分離を上手に活用することで暮らしを充実させることができます。そこで本記事では、介護保険制度における世帯分離とは何か、メリット・デメリットや手続き方法、注意点についてお伝えしていきます。

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世帯分離とは?

家とマンションの模型


まずは世帯分離のとは何か、その目的や効果についてお伝えします。

同居家族が住民票の世帯を分けること

厚生労働省は「世帯」を「住居及び生計を共にする者の集まり又は独立して住居を維持し、若しくは生計を営む単身者をいう」と定義しています。要は、住居(同じ住所)で生計を一にして生活している人たちのことです。同じ世帯で暮らしている家族が、住民票に一世帯として記載されています。

この世帯の家族の誰かが、住民票を移して別の場所に住む、住所は同じでも生計は別になる、住所も生計も別になるといった場合、住民票の世帯を分ける、すなわち「世帯分離」を行うことができます。
たとえば、親子2世代が同じ家に住んでいるが生計が別で、親世代が介護保険サービスを利用している場合は、世帯分離することで介護費用の負担を軽減できる可能性があります。

世帯分離をする目的

世帯分離の多くは、税金や社会保険料の金額の適正化を目的としています。たとえば、介護保険サービスを利用した場合、介護サービス費に対して一定の自己負担(1~3割)が発生します。

1ヵ月に支払う自己負担限度額は「高額介護サービス費」により、世帯全員の合計所得に応じて区分された上限額が決められています。上限額を超えた分は申請すると払い戻しされます。申請時には、市区町村の担当窓口へ必要書類を提出する必要があります。

このことから、世帯分離をして要介護者のいる世帯の所得が低くなると、それに応じて費用負担の限度額が低くなり、介護費用の軽減などにつながります。

具体的な例としては、親子2世代が一世帯として住民票登録している家族がいます。親は公的年金収入のみ、子どもは働いています。そして、同居していますが生計は別にしています。
この世帯の親が介護サービスを受ける場合、自己負担額は親の年金収入と子どもの所得をもとに計算されます。

しかし、親と子で世帯分離すると親世帯の所得が低くなるため、介護サービスを受ける際の自己負担額が軽減される可能性があります。
注意点として、介護費用の負担軽減など「金銭的な利得」を目的とした世帯分離は公平性・道義性に欠けるとして認められない場合もあります。

【出典】
厚生労働省「国民生活基礎調査規則 (定義)第三条」
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=361M50000100039
国税庁「5 高額介護(居宅支援)サービス費 (介護保険法51、61)」
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/shotoku/shinkoku/010131/03/05.htm

世帯分離をするメリットとデメリット

相談をしている様子


世帯分離することで、今まで合算されていた親と子どもの所得が世帯ごとに計算され、親世帯の所得額が下がります。所得が下がると社会保障にかかる保険料などの費用が抑えられる可能性があります。ここでは、世帯分離のメリットとデメリットをお伝えします。

世帯分離のメリット

介護費用の自己負担額割合(1〜3割)や負担額の上限を下げられる

介護保険サービスを利用するときには、介護保険サービス費の一部を利用者が自己負担します。この自己負担割合は、本人の所得と同じ世帯にいる65歳以上の人の所得で決まります。また、高額介護サービス費は課税所得(所得税がかかる所得)により自己負担の上限額が決まります。世帯分離をすると、世帯の合計所得金額が低くなり、介護費用の自己負担額割合や負担額の上限を下げられます。

介護保険施設を利用する費用の負担額も軽減できる

介護保険施設(特別養護老人ホーム・介護老人保健施設・介護療養型医療施設)への入所やショートステイを利用する際、食費や居住費の自己負担限度額は、所得や資産額などにより決まります。また、所得などが一定以下の場合は住民税の納付金額などにより、さらに自己負担額が軽減されるため、世帯分離により所得が一定以下になると、介護保険施設を利用する費用の自己負担額を減らすことができます。

後期高齢者医療制度を利用した際の費用が抑えられる

後期高齢者医療制度に加入している家族(75歳以上または一定の障害がある65歳以上)と世帯分離をすると、世帯の所得が低くなり住民税非課税世帯になる可能性があります。
後期高齢者は介護を必要としている方が多く、住民税非課税世帯に該当すると介護費用の軽減につながります。

国民健康保険料が下がる可能性もある

国民健康保険料は前年の所得額から年度の保険料を計算します。自治体により保険料率が違うため、保険料もお住まいの自治体ごとに変わります。また、世帯所得が一定額以下の場合は、役所に届け出ることで保険料が減額・免除されます。

世帯分離することで世帯の所得金額が下がり、保険料が下がる可能性があります。なお、世帯分離により国民健康保険料が変更になるのは、翌年度の4月からです。

世帯分離のデメリット

親を子どもの扶養家族としていた場合、世帯分離して親を子どもの扶養から外すと、子どもの勤務先で加入している健康保険の被扶養者(健康保険の被保険者、すなわち子どもに扶養されている人)からも外れます。

子どもが会社から扶養手当や家族手当を受けていた場合はその手当は支給されなくなり、親は国民健康保険に加入し自分で保険料を負担する必要があります。ちなみに、75歳以上の後期高齢者は一人一人が被保険者となり、後期高齢者医療保険料を負担する決まりとなっているため、健康保険の被扶養者になることはできません。

また、世帯分離後は今まで同一世帯の家族が行っていた行政手続き(各種証明書の発行・住民異動届・マイナンバー関連など)を行う際、委任状が必要になるなど煩雑になります。

世帯分離することのメリットは前述した通りですが、親の所得金額によっては国民健康保険料や介護サービス費の負担が増える可能性があるのがデメリットです。世帯分離をする前には、本当に経済的・事務的にメリットがあるのかをしっかり検討しましょう。高齢者の福祉に関しては、地域包括支援センターで相談することができます。

【出典】
生命保険文化センター「実際にかかる介護費用はどれくらい? 65歳以上、一定以上所得者の自己負担割合は2割または3割」
https://www.jili.or.jp/lifeplan/lifesecurity/1111.html
厚生労働省「国民健康保険の保険料・保険税について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_21517.html
和歌山市「介護保険料について  よくある質問」
https://www.city.wakayama.wakayama.jp/faq/hukushi/1007882/1007930.html
政府広報オンライン「後期高齢者医療制度 医療費の窓口負担割合はどれくらい? 1後期高齢者医療制度とは?」
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/202209/1.html
山梨県甲斐市「代理人による届け出は「委任状」が必要です」
https://www.city.kai.yamanashi.jp/soshikinogoannai/siminkoseki/2/4/683.html

世帯分離の手続き方法

住民票の手続き書類


世帯分離の定義や、そのメリット・デメリットをお伝えしてきました。世帯分離の手続きは自治体の窓口で申請しますが、必要な書類は自治体によって異なります。また、生計を別にしていることの証明が必要になる場合もあります。具体的には、所得証明や生活費引き落とし口座の通帳、領収証を自治体に見せることになります。

ここでは具体的な手続き方法についてお伝えします。
世帯分離の手続きは、住民登録している自治体の窓口に「世帯変更届」を提出します。担当窓口で書類を受け取り必要事項の記入をしますが、自治体によっては書類をホームページでダウンロードできます。
なお、手続きに必要なものは一般的に以下の通りです。

  • 世帯変更届
  • 本人確認書類(マイナンバーカード・運転免許証・パスポート・在留カード・健康保険証・年金手帳など)
  • 本人や同一世帯以外の人が代理人として手続きする場合は、代理人の本人確認書類と委任状

また、自治体によっては国民健康保険証(加入者のみ)や、印鑑なども必要になります。自治体には多くの制度があり、利用する制度によって必要な書類も変わります。手続きの際は住民登録している自治体のホームページ、直接問い合わせるなどして確認しましょう。

世帯分離に関するよくある質問

ここでは、世帯分離に関してとくに質問が多い3つの内容について記載します。

世帯分離は違法?

世帯分離は違法ではありません。各自治体のホームページにも世帯分離の申請方法について記載があります。ただし、経済的利益を得るために虚偽の申請を行うと法律に違反することになります。

また、民法752条で「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」という協力扶助義務があるため、原則として同居している夫婦が世帯分離することはできません。ただし、夫婦のどちらかが介護施設に入居しており、事実上同一生計でないなどの場合は、世帯分離できることもあります。

同じ住所の親と世帯分離できる?

親と子どもが同じ住所でも、生計が別であれば世帯分離することができます。ただし、自治体によっては生計を別にしていることの証明が必要になる場合があります。
申請時に別生計であることの証明を求められたときには、生活費や住居費、税金などを各世帯で負担していることを確認できる銀行口座の明細書や領収書、所得証明や資産証明などを提出しなければならないことがあります。

年度途中で世帯分離すると介護保険料はどうなる?

世帯分離することで世帯の所得金額が下がり、介護保険料が下がる可能性があります。介護保険料の年間保険料を計算する基準日(賦課期日)は前年の所得をもとに4月1日時点の住民票上の世帯全員の住民税課税状況で所得段階が決定されますが、世帯分離により保険料が変更になるのは翌年度の4月からです。

ただし、世帯分離をすることで世帯所得の金額に変動があり、介護費用の負担割合も変わる場合、介護保険料だけではなく介護サービス費などの支払い金額も変わります。手続きをするタイミングに注意しましょう。

【出典】
法令検索「民法 752条」
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089
滋賀県 長浜市「FAQ」
https://www.city.nagahama.lg.jp/faq/faq_detail.php?co=cat&frmId=1299&frmCd=1-5-0-0-0

介護保険と世帯分離の仕組みと制度を正しく理解しよう

世帯分離をすると介護保険においてどのようなメリット・デメリットがあるのか、申請方法や注意点などについてお伝えしてきました。国や自治体の制度には、申請しなければ使うことができない制度が多くあります。その制度本来の目的や仕組みを正しく理解して、制度を上手に活用していきましょう。

介護保険は税金や社会保障制度など、さまざまな制度が絡み合っている大変複雑な制度です。そして、介護の備えが必要なことは漠然とわかっているものの、何から始めたらいいのかわからない、といったこともあるでしょう。そのようなときは専門家の話を聞いて、ご自身の困りごとを交通整理することをおすすめします。

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  • 著者
    石井 麻理子さん

    AFP・FP2級。国内生命保険会社、税理士専門の保険代理店の勤務を経て、現在は国内損害保険会社の研修講師を勤める。自身の経験を活かし、ひとり親専門のFP相談も行っている。また、東京都ひとり親家庭就業推進事業にも携わる。

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